dream

□第十話-痛む身体と心と…-
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「まぁ…そんなわけないとは思ってたけど」
 アレルヤが苦い顔で呟いた。
 ライトニングがカプセル治療を拒否し、営倉に入って既に数日。
 その間、治療は受けたものの痛み止めは決して受け取らなかった。
 食事もあまり口にしてくれない…と、悲しそうな顔でフェルトがつぶやいていた。
 アレルヤがモニターから中の様子を覗くと、部屋の隅で壁にもたれかかってぐったりと座り込んで俯いたまま、まったく動かないライトニングの姿があった。定期的に、傷が痛むのか痙攣するように肩が動いて俯いた顔が歪み、苦しそうに小さく呻く声が漏れていた。
 はぁ…と、思わずため息をついてから、アレルヤはつぶやいた。
「スメラギさん」
 早く出してやれと責められているような気がして、スメラギがきつく目を閉じてアレルヤの方を見ずに言った。
「わかってるわよ…ッ、わかってるけど、どうにもならないのよ…」
「いえ、僕がお願いしたいのは」
 




 数十分後、ライトニングは強制的に医務室に連れてこられた。
「面会って…アレルヤ、メディカルルームは面会するところじゃないから」
 思わず苦く笑うライトニングの後から部屋に入ってドアを閉めてから、アレルヤは苦々しくつぶやいた。
「いつまでこんなことしてるつもりなんですか。あなたも、ティエリアも」
「んー…しまった。確かにそういえばいつまでにするか決めてなかったわね…。…君と同じ日数が経過するくらいまで…かな?」
 軽い物言いに今度こそ全力でため息をついて、アレルヤは言った。
「ホント…何を言っても無駄なんだから。せめて…今だけでも横になってください」
 思いつめたアレルヤの顔を見て、ライトニングは苦く笑って言った。
「わかった…それじゃ、アレルヤの気持ちに甘えさせてもらうわ」
 拒否されなかったことに安堵しつつ、アレルヤはそっと彼女の身体を抱えてベッドに運んでやった。上から薄い毛布を掛けてやって、自分は椅子に座る。
「アレルヤ…」
「え?」
「ありがと」
「いえ。僕の方こそ、この前はすみませんでした。僕があの時、ライトに気づいていたら…」
 目を伏せたアレルヤに、いつもの笑顔でライトニングが軽く言い放った。
「それは言わないお約束だって。それに…私もあなたに謝らないといけないことがあってね」
「なんですか?」
「逃げ遅れた理由…ってやつかしらね」
 話を聞いて開口一番、アレルヤは言った。
「それで、良かったんだと思います。確かにその子はいつか僕らを殺しに来るかもしれない。でも、その時は改めて戦いますよ。僕だって殺されるわけにはいかない。でも、もしかすると、こないかもしれない。ライトの言ったように、銃を手にしない生き方を…してくれるかもしれない。僕らの…代わりに」
 少し驚いた声でライトニングが言った。
「アレルヤ…。ずいぶん、強くなったじゃない」
 ゆっくりと彼は首を横に振った。
「もう少し、僕なりに考えてみたいんです。今回のこと。僕のこと。姉さんのこと。…そして、その子のこと」
「アレルヤ? 今…」
「ああッ! す、すみません。思わずッ」
 真っ赤になって慌てるアレルヤに苦笑してライトニングが言った。
「いいって。フェルトもたまにそう呼んでくれてるし。私もよく自分でお姉さんとか言ってるしね」
「ライト…恥ずかしくないんですか? その、それ…」
「だってホントのことよん? お姉さん、ちゃんとみんなのこと弟や妹みたいに思ってるもの」
 いつものこの能天気な笑顔である。
「そう…ですか…」
 やっぱりこの人には何を言っても無駄だ。
 でも…不思議と暖かい気分だった。
 家族、か。
 胸中呟いたアレルヤの耳に、静かな寝息が聞こえてきた。きっと、ここしばらく眠れていなかったのだろう。
「おやすみなさい、姉さん。あと少しの間だけ…」






 わずか一時間の面会時間が終わると、また今まで通りだった。結局、ゆっくり眠らせてやれたのは数分間だけ。
 地上ではアザディスタンの要人が誘拐されたとかで、刹那とロックオンが調査しているらしい。
 報告を受けるついでに、こっちの様子をロックオンに伝える。
「というわけで、結局まだ営倉入りが続いてます」
『営倉って…。んなことしてる場合かよ。ったく。ライトもティエリアも』
「すみません。ロックオン」
『お前の所為じゃねぇよ。んな顔すんなって。このミッションが済んだら、いったん俺だけそっちに戻る。それまで宙は頼んだぜ、アレルヤ』
「了解」
 まったく…いつまで続くんだか。





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