dream

□第十話-痛む身体と心と…-
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『それからね、ロックオン…』
 地上でのミッション終了報告の後、通信機の中のスメラギが顔を曇らせて続けた。
『ライトが…見つかったの』
「…そうか。やっぱり居場所は」
 地上の風が、心地よく吹いていた。
『ええ。超人機関の施設…。それで…キュリオスの攻撃に巻き込まれて…』
「な……ッ?! 嘘だろ…?」
 ライトニングにしては珍しすぎる失態だった。
 ライトニングのことだから、攻撃開始前に逃げる算段で行動していたはずだ。なのに…何故。
 そんなことになればアレルヤがどれほど傷つくかわからないわけでもないだろうに。
『怪我はしているけど、幸い命に別状はないわ。落ち着いたらこっちで話を聞いてみるつもりよ…。とにかく、地上のことはしばらくあなたに任せるわ。刹那をお願い』
「…了解」
 苦い顔で通信機を切る。
 アレルヤの話していた超人機関の話。
 彼は、ライトニングはその記憶がないらしいと言っていた。
 ならロックオンが聞いていた話とつじつまが合う。
 子供の頃の記憶がないという期間。
 彼女はそれを調べに行ったのだ。おそらく、ミッションプランを見て全て破壊してしまうと知った時から、破壊される前に調べるつもりだったのだろう。
 一人で。誰にも相談せずに。
「なんで…ッ、なんで言ってくれなかった…ッ」
 自分は…そんなにも頼りにならない存在だったのだろうか。
 いや、違うな。
 自分が超兵だという事実をある日突然突き付けられて、平気でいられる人間などいるはずがない。
 きっと…誰よりも辛かったんだ。
 辛くて…でもそんなこと誰にも言えなかった。
 あの日チラッとドア越しに見えた彼女の強気な作り笑顔が脳裏に浮かぶ。目が少し赤かった。
 聞いてやればよかった…。あの夜。
「俺が……」
 聞いてやっていれば。





 服の袖から覗く包帯が痛々しい。
 テーブルに座ったライトニングの対面に座ったティエリアが硬い声で訊く。
「何故、このような事を…」
 ライトニングは小さく笑った。
「悪かった…。君の期待を裏切ってしまったことは、申し訳なく思ってるよ」
 淡々とティエリアが話す。
「あなたは…ふざけた物言いをしていても、常に聡明だった。判断力も、マイスターとしての実力も、充分に備わっていた。俺は…今回の独断行動に関して、正当な理由があるならあなたの口から聞きたい」
「ティエリア…」
 少し驚いた眼でティエリアを見つめた後、ライトニングはぽつぽつと話し出した。
「ふふ…まさかティエリアがいつの間にかそんなに私のことを認めてくれていたとはね。嬉しくなるじゃない…まったく」
「ライトニング・ランサー。あなたがどう感じていたかは知らないが、俺はあなたをマイスターとして認めていた。何故だ? 何故命の危険を冒してまであんなことを…」
「ティエリア。君やCBのみんなに迷惑をかけたこと、申し訳ないとは思ってる。マイスターとして失格だと思うなら、ブリューナクから降ろしてくれても構わない。元々私がガンダムで戦えるのだって、私自身の力でもなんでもないんだから…。けれど、まだ飛ぶことを許してくれるなら、私の力を今まで通り使ってほしい」
「…どうしても、理由を言うつもりはないらしいな」
 珍しく悲しげに目を伏せたティエリアに、ライトニングはフッと笑って、いつもの軽い笑顔で言った。
「理由は簡単よ。私も、人の子だったってこと」
「人の子…?」
「そう。人の子。だから、命がけでもやらなきゃいけないことがあったってだけ。怪我をしたのはただ単に不手際があったってだけよ。ホント…笑っちゃうわね」
 ニコニコと笑顔で話すライトニングに、ティエリアは無表情のまま、黙って席を立った。
 人の子。
 人の子…だと?
 何度もその言葉を反芻する。
 ヴェーダ、俺は。
「わからないな…」
 理解できない。だが、どうしても今回の彼女の行動を見て、不愉快に思えないのも事実。
 愚かな独断行動の末の大怪我。
 何故腹が立たないのか、ティエリア自身にも不可解で仕方なかった。





「わかったわ…。今回の件は、あなたが自分の素性についてどうしても知りたかったから。そういうことね」
 スメラギとて納得したわけではなかった。
 しかし、そう結論付けなければいつまで経っても怪我人を椅子に座らせて尋問し続けなければならない。
 対面テーブルに座ったライトニングが軽く笑った。
「ありがと。スーちゃん…。さて、と。命令違反の罰則は…なんだっけ? 確かアレルヤの時は営倉…何日だった?」
 ライトニングがいつもの笑顔で軽く言い放った瞬間、ティエリアが即答した。
「必要ない。君はもう充分に報いを受けている」
「いやいや、この怪我は単なる自業自得だって。けじめはつけないと…ね?」
 流石に驚いて絶句していたスメラギが慌ててライトニングに言った。
「せめて怪我が治ってからにしましょう…ッ。こんな状態で…」
 遮るようにライトニングが硬い声で言い放った。
「ティエリア」
 しばらく目を閉じていたティエリアが、眉に皺を寄せて呟いた。
「…それほどまでの覚悟なら、望みどおりに」
 スメラギが叫んだ。
「ティエリアッ!!?」
 その場にいたクルーの誰もが目を剥いていた。正気の沙汰ではない。
 ライトニングが穏やかな顔で呟いた。
「それでいい…ティエリア」
 みんなが硬直する中、ティエリアがライトニングに手を差し出した。
「ライトニング、肩を」
「大丈夫よん。自分で歩けるって…」
「何か、必要なものは?」
「ないない。そんなに気を使わないの」
 二人で仲良く話しながら部屋を出ていく姿は、とてもではないがこれから命令違反者を営倉に連れて行く様子ではなかった。
 このまま彼女の部屋に連れて行って休ませてやるのではないかとさえ思えるような。
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