dream

□第九話-超人機関-
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 人革連に存在する超人機関研究施設への攻撃ミッションが決まった。
 アレルヤが、スメラギにミッションプランを進言したらしい。
 そのミッションプランを見た瞬間、誰もが言葉を失った。
「こいつは…」
 苦い顔でロックオンが呟く。
 キュリオスによる、施設への攻撃。施設の詳細情報によれば、施設に防衛手段は一切存在せず、コロニーにも軍備はないためキュリオス一機で充分に破壊可能。
 中にいる研究者と、彼らの所有している兵器−−−つまり、超兵として被験体にされている子供たち−−−を全てを殲滅し、二度とこのような悲劇が繰り返されないようこの事実をマスコミを通じて世界にリークすることで超兵計画などという、非人道的な戦争の幇助行為に終止符を打つ。
 それが、ヴェーダの推奨するミッションプランだった。
 正しい。このプランは戦争根絶という目的に対して、どこまでも正しく忠実だ。
 しかし…悪だ。どうしようもないくらい、悪だ。
 それも、同じ超人機関の出身者であるアレルヤに引き金を引かせるなど。
「…ミス・スメラギもよく決断したもんだぜ」
 ブリーフィング終了後、ブリーフィングルームに残って苦々しく呟いたロックオンに、ライトニングが淡々と言い放った。
「アレルヤが立案したプランだから…でしょうね。彼は心の底から無くしたいのよ。自分たちのような存在を生み出す忌まわしい研究を。そして、自分の同胞たちが戦争に利用されないために、自分自身の手を汚して幕を引くことを決めた。なら、私たちにできることは…見守ることだけなのよね…」
「ああ…そうだな」
 この時点で、ライトニングが実は超兵機関の関係者であることは、CB内でもアレルヤ・ハプティズムしか知らない。
 彼は自分のことをデータにまとめる際、ライトニングのことは一切誰にも口外しなかった。
 ライトニング自身も自分が超兵である可能性についてほぼ確定だと確信しつつも、誰にも話すことはなかった。
 このミッションプランがCB内で実行に移されようとしてブリーフィングで全員に説明された時でさえ、彼女は何も言わなかったのである。
 そのことを、この時点でアレルヤが少しでも不審に思っていれば、あるいは違う結末があったのかもしれない。
 とにかく、ティエリアはアレルヤのバックアップに。残る三人は地上に降りて別のミッションにあたる…という話でその日のブリーフィングは終わった。





「アレルヤ…」
「ライト。僕は…ガンダムマイスターです」
 それが、彼の出した答えだった。
「それが君の答えなら。やりなさい。躊躇わずに。…たとえ、それが誰であったとしても」
「はい」
 その時CBにいた超兵。その二人が交わした会話は、たったこれだけだった。





 そして、翌日。最初に異変に気付いたのはイアン・ヴァスティだった。
 今朝するはずだったキュリオスの整備が、終わっていた。
 キュリオスだけではなかった。残りの四機もすべて、綺麗に。いつも以上に丁寧に丁寧に整備されていた。
「一体誰が…」
 ブリューナクのコックピットに残された紙面とデータスティックに気づく。
「これは…」
 データの中には、立案中の武器や機体パーツの設計書。さらには、かつてライトニング・ランサーがCBに持ち込んだ独自の技術。その全てがまとめられていた。
 紙面に残されていたのは、データスティックの閲覧解除パスと、たった一言。
『親愛なる友人、イアン・ヴァスティへ』
 それだけだった。





 ライトニング・ランサーは完全にプトレマイオスから姿を消した。
 緊急でブリーフィングが行われたが、彼女が自分のガンダムを置いていったこと、そして、身の回りを整理し、彼女しか知らないパスコードやロック類を全て机上に置いたうえで、一切の機密情報を持ち出さずに小型艇で出て行ったことなどから、緊急性は低いと判断された。
 被害と言えば、小型艇を一隻持っていかれたことと、小型艇の発進用にフェルトとクリスの使っていた端末の一部がウイルスを用いて勝手に書き換えられていたことだけだった。
 後日判明したことだったが、一定時間後、自動的に書き換えられたシステムはすべて元に戻り、二人に宛てた手紙がモニターに残される仕組みになっていた。
 アレルヤからすべての事情を聴いたスメラギが苦い顔で呟いた。
「やられた…。ライトの得意技が機械いじりだけじゃなくクラッキングもだったってこと…忘れてたわ…。…せめて、先に私に相談してくれれば」
「すみません…」
 暗い顔で詫びるアレルヤに、言ってやる。
「あなたの所為じゃないわ。とにかく、今はミッションが優先よ。ロックオンと刹那は予定通り地上へ。ライトがいなくてもミッション、できるわね?」
 モニターの中の二人の返答を確認してから、スメラギはアレルヤに向きなおって言った。
「アレルヤ。私の予想だと、ライトニングはあなたがこれから向かう施設にいるわ」
「……ッ。何故…」
 驚くアレルヤをなだめるようにスメラギは続けた。
「理由はいくつか考えられるけど…とにかく今は、プラン通りに行動して。そして、できればライトを助けてあげて。これは親友としての私の気持ちもあるけれど…。戦術予報士としての頼みでもあるわ。彼女の力は、私たちにとって必要なものよ。無くすには惜しい。それでも…もし最悪の場合には…」
「最悪の場合って…スメラギさん…まさか」
「そのまさかよ。…ライトを助けるために、ミッションを中止することはできないわ」
「スメラギさんッ!!」
「だからッ! だからあなたに頼むのよ。アレルヤ。あなたになら…私たちにはない力があるのなら…。助けられるかもしれない。あなたにライトの意識を感じ取れるのなら」
「僕の……」
 脳量子波で…。
「お願い…ッ。アレルヤ…」
 切羽詰った顔のスメラギにできる限りのことをすると約束してキュリオスに乗る。
 彼の長い一日は、まだ始まったばかりだった。
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