dream
□第八話-超兵-
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大量の通信機を利用した圧倒的な物量作戦。
人革連によるこの作戦により、CBは初めて攻め込まれる側の立場となった。
それも、ガンダムのオーバーホール中に。
『機体の整備状況は?』
ヘルメットの通信装置から、スメラギの緊迫した声が流れてくる。
キュリオスとヴァーチェが陽動に発進し、続いてエクシアがトレミーの防御に出た。
パイロットスーツのライトニングが格納庫に移動すると、イアンの渋い顔が目に入る。
「ライト、ブリューナクなんだが…」
「武装全解除の状態…ね。これは…きっついなぁ…」
機体を見上げながら思わず呟くライトニング。
「すまんが出撃は無理だ。ブリッジに行って…て、おいッ!!」
ふわっと浮いて機体に乗り込もうとするライトニングに怒鳴るイアン。しかし、軽い笑顔で彼女はひらひらと片手を振った。
「大丈夫よん。こう見えて格闘戦は得意なの」
まだ何か下で叫んでいるイアンを無視してコックピットハッチを閉める。
スクリーンを起動した瞬間、通信窓が開いてロックオンの怒鳴り声が飛んできた。
『ライト! お前、武器なしで何するつもりだッ!』
「殴るとか蹴るとか、いろいろできるでしょ? 何の為にMSが人型してると思ってんの?」
少なくとも、殴ったり蹴ったりするためではない…と、ロックオンは思ったが今はそんな話をしている場合ではなかった。
通信窓の中のライトニングに険しい顔で告げる。
「ただでさえブリューナクは他の機体に比べて装甲が薄い」
『ティエレンよりははるかに頑丈だけど?』
「待てライトッ!!」
ロックオンがそれ以上何か言う前に出撃してしまったブリューナクを見て、慌ててブリッジに通信を入れる。
「ブリッジッ! なんで発進させたッ?!」
『苦情は後で聞くわ。それより、ロックオン』
「……?」
スメラギが一言二言話す。
『武器なしでの出撃…。ライトニング・ランサー、何を考えている?』
「うーん…なんか刹那に言われると複雑だけど…。まぁ、なんとかなるさ。いつもと違ってリーチがないから、手が届かない所はお願いね、エクシアちゃん」
『…了解』
話が早いところが刹那のいいところだ。
わけのわからない状況になってもとりあえず今はそれが現状であると認識してすぐに切り替えられる。他のマイスターと違い、彼は場数を踏んでいるような、ライトニングにはそう思えた。
『ライトッ! ちょっとこっちに来い』
ロックオンからだった。
脚部のメンテナンスが間に合わず、コンテナに脚部を固定されているデュナメスのところへ飛ぶ。
「なになに? こんな狭いコンテナに呼び出すなんて…。でも今は緊急時よん?」
『言ってろ。ったく…。あとでお説教だ』
ブンッと投げてくれたデュナメスのビームサーベルを受け取る。
『使え。それから、俺の射程の範囲内から出るな。援護する』
確かに、今のブリューナクとデュナメスの状況ならそうするしかない。おそらくこれはロックオンの判断ではなくスメラギからの指示だろう。
「りょーかいッ」
剣か…。胸中呟きながら、手元のビームサーベルを見る。剣は久しぶりだ。
実はブリューナクの武装にビームサーベルはもともと存在しない。代わりにはるかに性能が上のビーム槍が実装されている。故に構築済みのアタックパターンの中にビームサーベルに対応しているモーションパターンはない。
「手動でやるしかないな」
望むところだ。伊達にパイロットとして優秀と呼ばれてきたわけではない。
戦況は最悪だった。
ガンダム3機に対し、敵は54機のMS。
ライトニングは流石だ…。彼女の腕は既に知っていたが、それでもロックオンが内心舌を巻く。
敵が次々と射程の範囲外に移動するような戦い方をしているにもかかわらず、背後にいるロックオンのことも視野に入れたうえで敵を一体ずつ確実に追い込んで落としていく。
敵の動きに惑わされず、丁寧に自分のやらなればならないことを一つずつ淡々とこなしていく戦い方。
やはり、慣れている人間なのだ。
使われている剣のモーションパターンも初めて目にするものばかりだが、あとでデータをもらいたいくらいだ。
まったく…プロの力には恐れ入る。
しかし、ロックオンの眼にも味方の不利は明らかだった。
敵の数が、あまりに多すぎる。
更に、艦船攻撃のセオリーに外れた遠距離攻撃により、敵の撃破数が思った以上に稼げずにいた。
これは…時間稼ぎだ。
胸中呟いたライトニングの脳内に、嫌な思考が走った。
敵からしてみればキュリオスとヴァーチェが戻ってくる前になんとかしたいであろう状況。
要するに逆だ。こちらが足止めされているということは、狙われているのはキュリオスとヴァーチェの方だ。
「まずいな…ティエリー。アレルヤ…」
助けに行きたくても、どうすることもできない。
まただ…。また、助けられない…。
「……ッ!! 私は…ッ」
どうして…ここまで無力なのだろう。
アレルヤの言うように、自分に超兵の力などというものがあるのなら何故誰一人助けられない?
何も守れない。アレルヤ…。
呼んだ瞬間、彼女の脳に軽い痛みが走った。