dream

□第六話-兄-
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 テロ組織の割り出しに奔走しているエージェントからの連絡があるまで、実行部隊の彼らは船の上で待機となった。
「何故そんな恰好を…」
 呆れ果てて呟くアレルヤの前に立つ水着美女三名。視聴者サービス…否、カモフラージュだとスメラギは言っていたが。
「ライトも着ればよかったのに…」
 普段と同じ格好のライトニングにクリスが笑顔で言う。珍しくライトニングが苦笑した。
「うーん、私は水着はちょっと…」
 盛り上がる一行をよそに、一人離れたところでそっとため息をつくアレルヤ。
「………やっぱりあの人は…嘘はついてない」
(あんでだよッ! 説明しろッ!)
 小声で頭の中の会話を続ける。
「ハレルヤ…。昨日の脳量子波は彼女じゃない」
 昨日、ドックにいたアレルヤが突如感じた強い脳量子波の正体は一体なんだったのか。
 アレルヤ自身は誰かのそれをただ感じ取っただけにすぎなかったが、ライトニングは気を失うほどの強い干渉を受けていた。
(はあ? だからなんなんだよ。どっかの誰かがあの女に散々干渉してきてるンだろうが。要するにそいつも、あの女も、どっちも俺らと同類だ)
「そうだとしても、あの人はそれがわかってないんだ」
(どんだけめでてぇ頭してりゃ自分が改造人間だって知らずに生きてこれンだよッ!)
 ハレルヤのもっともな突っ込みに、アレルヤが淡々と答える。
「…確かにどうして知らないのかはわからないけど」
(んで? お前あの女にこのこと話すって約束したンだよなぁ? アレルヤ)
「………ッ!? ハレルヤ…ッ」
(アンタは俺と同じ、体をあちこち強化され脳をいじくり回されてできた化け物だ。って、あの女にはっきり言ってやんのか? ええ?)
「……それは…」
 言いたくない。絶対に。
 言えばあの人は傷つく。
「…言う必要が…あるのか? そうだ。今までだって知らずに生きてこられたんだ。なら、ずっと知らない方が…」
(甘いこと言ってんじゃねぇよ。昨日の奴は今後もあの女の脳に一生干渉し続けるぜ? わけもわからずに苦しんでるあの女の横でお前は涼しい顔して白々しく頭痛の心配し続けんのか? 要するに自分が傷つきたくねぇだけだろうが)
「違う…ッ、僕は…」
 一体何が正しい選択なのだろう。
 本当のことを教えるのは、正しいことなのか、間違っていることなのか。
 一つ、アレルヤの中で確定しているのは自分の口からは絶対に言いたくないということ。
 それがハレルヤの言うようにアレルヤ自身が傷つきたくない故の逃げなのか、ライトニングを傷つけたくないからなのかはわからない。
『いつか話してくれるよね?』
 話す…のか? 彼女に。
 きっと。
 話しても話さなくても、どちらも少しずつ正しくて、少しずつ間違っているのだろう。
 そんな気がした。





 無差別テロを起こし、CBに対して脅迫を行った組織はほどなくして判明した。
 エージェントが敏腕だったというより、各国政府の密かな協力によるものだ。
 そして、ガンダムマイスター達に攻撃指示が下された。
 空に浮かぶブリューナクから、眼下のテロ組織のアジトを見ながら、ライトニングは目を細めた。
 何人もの人間が、見える。
 あの日、義父母の葬式が済んでそれでもまだ家で一人膝を抱えてすすり泣いていたライトニングに、兄がそっと声をかけてくれた。
『エル…。俺は…』
『…悪い子だったから…ッ、私…が…ッ。悪いことばっかしてたから…ッ。だからこんなことになったの…ッ。おばさん達何も悪くないのに…ッ。私が…。…ごめんなさい……ッ。ごめ…なさい…。…ごめんなさい…』
 暗い部屋の中で、嗚咽だけが響いていた。消え入りそうな泣き声で何度も何度も謝り続ける少女に、少年は叫んだ。
『違うッ!!!!!』
『……』
『エルは悪くない。関係ねぇだろうがッ!! 悪いのはテロを仕掛けた連中だッ! そいつらがいなけりゃ…ッ。誰も殺されずに済んだんだよッ!!』
『…兄さん……』
 少年の小さな拳が、壁を叩いた。
『…俺は絶対許さねぇ…ッ。絶対…』
 双子で、顔も性格もよく似ていた二人だったが、当時から考え方は少し違っていた。
 だが。
「兄さんの言う通りね…。確かに今回のテロは私たちCBに対しての脅迫が目的だった。私たちの為に大勢の人が犠牲になった…。でもね」
 ゆっくりと武器を向ける。
 自分が悪くないと思ったことは一度もない。
 あの時も、今も。
 けれど。
「彼らを殺したのは、間違いなくこの連中なのよね。今ならわかる。兄さんの気持ちが」
 引き金を引く。
 ビーム兵器から発射される巨大な光の柱が、次々と人間を蒸発させていった。
 ライトニングが、いつもの調子のいい好戦的な笑顔ではなく、滅多に見せない真顔で言った。
「悪いわね。お姉さん、今日はちょっと本気よ」
『…俺は絶対許さねぇ…ッ。絶対…』
「私も…許さない…ッ」
 カシャン…ッ、と音を立ててランチャーのモードを変える。
 引き金を引いた瞬間、眼下の建物が跡形もなく吹っ飛んだ。
「ブリューナク、目標を完全破壊。…ミッション、コンプリート」
 呟いたライトニングの顔は、どこか物悲しかった。
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