dream

□第五話-モラリア紛争-
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 追跡されていないことをいつも以上に何重にも確認して、ブリューナクをいつもの島に戻す。
 少し気になってデュナメスを確認してみたが、今日は一度も動かした形跡がなかった。
 それはつまり、ロックオンはここから動かなかったということ。
「ただいま」
 ドックの中にいたロックオンに声をかける。
「おかえり」
 彼は心底安堵したような、それでいて少し複雑そうな顔で笑っていた。
 安心したようにライトニングも明るく笑う。
「やっぱりいいね。おかえりって言ってくれる人がいるってのは」
 なんだそりゃ、と楽しそうに笑ってからロックオンは訊いた。
「ライト、けじめとやらはついたのか?」
「ああ。つけてきたよ」
「…そうか」
 ガラス越しに機体の方を見ながら話すロックオンに、ライトニングは真っ直ぐ彼を見て言った。
「ロックオン、信じてくれてありがとう」
 フッと笑って、ライトニングの方を見てからいつもの笑顔で彼は言った。
「まぁ、無事帰ってきてくれて何よりってことで。実際内心ヒヤヒヤもんだったぜ? ったく…これっきりにしてくれよ」
 笑顔で気持ちのいい返事を返してくれる彼女と一緒に、笑う。
 本当に、無事でよかったと心の底から思う。
 本当は余程あとをついていくかどうか迷った。彼女が裏切る心配はしていなかったが、彼女の身が心配だった。
 無事に帰してくれたところを見ると、相手はよほど義理堅い性格の持ち主らしい。
 とはいえ…帰ってきた…か。
 馬鹿だ…本当に。彼女も、自分も。





『あのデータ、リークしたの? 今、ニュースで流れてるわよ?』
 スメラギからの通信に、軽い笑顔でライトニングが答える。
「んふふ。やっちゃった。ごめんね、スーちゃん。もしかしてもうミッションプランに組み込んでた?」
 笑顔のライトニングに少し安心したような顔でスメラギが苦笑する。
『まさか。流石に私もそれをやるならあなたに聞いてからにするわよ…。それにしても、どういう心境の変化?』
「うーん。女心と秋の空模様はなんとやらってやつかしら? ま、すっきりしたことは確かよん」
 明るく笑うライトニングに、スメラギはそっと息をついた。
『…ならいいわ。それであなたの気が済むなら』
「ありがとう。ところで、アレルヤは元気?」
『まだ営倉よ。ティエリアがまだ怒ってて…当分出してあげられそうにないわね』
「なんで急に人命救助なんてする気になったの? 彼」
 はぁ…とため息をついて画面の中のスメラギは肩を落とした。
『こっちが訊きたいくらいよ。いくら事情を聞いてもあの子、「すみません」としか言わないし、ライトかロックオンならまだアレルヤから話を聞けるかもしれないけど…二人ともいないし。挙句の果てにティエリアはアレルヤをキュリオスから降ろすとか言い出す始末。ホント…私もそっちに行きたいくらいよ』
 苦笑しながら聞いているライトニングに好きなだけ愚痴ってから、スメラギは言った。
『そうそう。もうすぐ次のミッションが決まりそうよ。大きなミッションになるわ。準備しておいて』
「りょーかい」
 笑顔で通信を切る。
 見計らったように、部屋のドアがノックされた。
「よぉ。通信機でミス・スメラギと晩酌か?」
 軽い笑顔の男が酒瓶とグラスを二つ持って立っていた。
「ロックオン…。どしたの急に? 珍しいね」
 珍しく目を丸くしたライトニングに、下目づかいに彼は言った。
「…たまには、な」
 意味深な低い声に、肩をすくめてライトニングが笑う。
 どうやら彼女には、新しい呑み仲間が増えたようだった。





 カラン…と乾いた音を立ててグラスの中の氷が溶けて崩れる。
「少し飲み過ぎじゃないか? グラハム」
 珍しくペースの速い友人に、ビリーが心配そうに声をかける。琥珀色の液体を喉に流し込んで、グラハムは言った。
「…酔いたい気分になるときくらいある。私にもな」
「穏やかじゃないねぇ…何かあったのかい?」
 コン…と、空になったグラスをカウンターに置いて軍服の男は言った。
「信じていた昔の上官に裏切られれば、誰でも穏やかな気分ではいられんさ」
 ああ。この前の件か。しかし、グラハムもつくづく上官に恵まれない男だ。胸中呟いて、ビリーは言った。
「それにしても、よくあんなデータが手に入ったね。匿名で君の所に送られてきたって言ってたけど、本当に差出人はわからないのかい?」
「…片桐。私は、我慢弱く諦めの悪い男でな」
「え?」
「取り戻したいものがある、ということさ」
「グラハム…」
 はっきりいってわけがわからなかった。
 が、何故かこれ以上訊いてはいけないことだと、ビリーの中の何かが告げていた。
 酒に紅潮した顔で、グラハムは胸中呟いた。
 ガンダムを倒す。容易でないことは熟知している。相手はあのエルミナだ。最強のパイロットが最強の機体に乗っている。
 だが、それがどうした。
 必ず超える。このグラハム・エーカーが。
 …そして、取り戻す。
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