dream

□第四話-グラハム・エーカー-
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 翌朝。ライトニングがデュナメスの整備を終わらせて、外で思いっきり体を伸ばしていると、足元で可愛らしい機械音声が流れた。
「カイセイ! カイセイ!」
 本当に快晴だ。青い空に程よく雲が流れて。
「遊びに行っちゃおうかなぁ…」
 なんて呟いていると、背後から固い声が飛んできた。
「アレルヤが宙で働いてるってのに…」
「じょ、冗談だって。ミッション中なのはわかってるって。待機待機ッ! あ、機体の整備は完ぺきよん?」
 この笑顔。まったく。
 軽く息をついて笑ってから、ロックオンが低い声で言った。
「昨日の話なんだが、ライト。お前、なんでCBに入った?」
「へ?」
「お前さんのことだから、機体が大破する前に戦闘中の音声レコードはしっかり抜いたんだろ? なら、その証拠を持って軍に戻るって選択肢もあったんじゃないのか?」
 鳥が、綺麗な声で鳴いていた。
 ライトニングが笑う。

「理解したくなかったのよ」

「何を?」
「世界を」
「……………」
 ライトニングは続けた。
「私たちのような犠牲を必要とする世界を、私は認めたくなかった。何故世界は犠牲を必要とするのか。その歪みを、世界と向き合って理解しあい正していく方でなく、否定し壊す方を選んでしまった…」
「…そうか」
 それは、彼自身の考え方に近いような気がした。否、きっと、CBにいる者はみんな多かれ少なかれそうなのだろう。
「許せなかったんだと思う。どうしても…許せなかった。だってそうでしょう? どれほどの理由があったとしても、自分を切り捨てた世界を…理解なんてできない。どうしようもないよね…弱くてさ」
 風向きが変わって、GN粒子が二人の間をまばらに通り抜ける。
「ならなんでこの前、相手のパイロットと話してたんだ? お前」
 ロックオンは無表情だった。
 ライトニングが小さく笑う。
「やっぱロックオン、気づいてた?」
 同じような顔でロックオンが笑い返した。
「ただの勘だけどな。俺にはお前が、世界と向き合うことから逃げてるようには見えない。むしろ、逃げずに戦う方を選んだんだ。お前は弱くなんかない」
 軽く笑ってライトニングがいつもの口調で言った。
「口が上手いねぇ。ほんっと。君にはかなわないよ…」
 言いながら、ポケットから一本のメモリスティックを取り出す。
「……やっぱ持ってたか」
 そこには、ライトニングが最後に乗っていた機体の音声データが記録されている。
 真実を記録した、たった一つの証拠品。
 ロックオンは続けた。
「今までそいつを隠し持ってたってことは、やっぱ復讐が目的か…」
 ライトニングの元隊長は今や出世しているとはいえ、まだ軍にいる。つまり、CBにいれば彼を撃つ機会もある。しかし、彼が失脚してしまえばライトニングの手が届かない場所にいってしまう。
「そのつもりだったけど。やーめた!」
「ライト…?!」
「一度だけ。あと一回だけ、世界と向き合ってくるよ。ライトニング・ランサーとしてではなく、エルミナ・ニエットとして」
「エルミナ…ニエット……」
「んふふ。私の本名よん」
 突然のことに面食らっていたロックオンが慌てて訊いた。
「なんで急に教える気になった?」
「さてね。…口が滑ったとしか。それじゃ、ご飯食べてくるよ〜」
 軽い足取りでスタスタと歩き去ろうとした背中に向かってロックオンは言った。
「…ニールだ」
「え…?」
「ニール・ディランディ。…俺の名前だ」
 振り返ると、男が好戦的な顔で笑っていた。なんだかくすぐったいような嬉しいような気分になってライトニングが何か言いかけた時だった。
 突然、二人の持っていた通信機がけたたましい音を立てた。
「……?!」




「命令違反…?! あのアレルヤが?!」
 素っ頓狂な声を出しながら急いでパイロットスーツに着替えるライトニング。同じくパイロットスーツでハロを抱えたロックオンが走りながら苦笑した。
「人命救助って…やるじゃねぇか、アレルヤ」
「可愛いふりしてあの子、割とやるもんだねぇ」
 二人して笑いあいながら出撃する。
 デュナメスで空を飛びながら、送られてきた指示を確認してロックオンは思わず呟いた。
「指定地点からの高高度射撃か…。ミス・スメラギも思い切ったな。こんなに早く出番が来るってことは…」
『今頃ティエリーはかんかんに怒ってるでしょうね』
 通信映像の中のライトニングが楽しそうに笑う。
「オコッテル! オコッテル!」
「アレルヤはともかく、怒りの矛先がミス・スメラギに向かなきゃいいが…」
 向くんだろうな…。苦笑しつつトレミーに乗っているクルーたちの苦労を思う。
 とはいえ、アレルヤが命令違反を犯してまで救おうとした人命だ。
 万が一にも狙いは外せない。
 指定地点が近づいて、前方から飛んでくるエクシアが見える。
「んじゃ、いっちょやりますか」
「ネライウツゼ! ネライウツゼ!」
 ハロの声が、コックピットに溌剌と響いた。
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