dream

□第一話-ソレスタルビーイング-
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「あなたに、その役を頼みたいと思って…」
「俺が?」
 あまりの意外さに声を上げるロックオンの横で、ハロが嬉しそうに跳ねた。
「タイチョー! タイチョー!」
 ファーストミッションの作戦説明のあと。
 スメラギとティエリアに一人ブリーフィングルームに残ってもらうよう言われてみれば、ガンダムマイスターのリーダーになってくれときた。
 慌ててスメラギが補足する。
「別に軍隊の隊長のようなことをしてもらうつもりはないわ。指揮官…コマンダーはあくまで私。作戦指示の変更はヴェーダと私から出すし、特にあなたが他の三人に命令したりすることもない。ただ、現場レベルで何かあった時にその場でうまく統率をとって欲しいの」
 早い話が、刹那の子守りをしろということだろうか? 何せ彼の危うさは有名だ。
 ティエリアがスメラギの話を淡々と続けた。
「我々はすでに不安要素を抱えているからな。メンバーのフォローと、不確定要素に柔軟に対応できるリーダーが必要だ。ライトニング・ランサーにもその素質はあるが…」
 肩をすくめてスメラギが苦く笑った。
「本人が多分、嫌がるでしょうから」
 どうやらロックオンの意思は聞いてくれないつもりらしい。
 やれやれ。内心苦笑してからロックオンは軽く笑った。
「了解」






 フェルトの声が、機械越しに聞こえてくる。
『デュナメス発進。…続いて、ブリューナクの発進シークエンスに入ります』
 カタパルトの向こうに、宇宙が見える。
 コロニーで生まれたライトニングにとって宇宙は故郷だ。
『ライトニング。みんなを…頼むわね』
 通信モニターが二つに増えて、スメラギの声が聞こえてくる。
「りょーかいッ! ライトニング、ブリューナク。…出る」
 久しぶりの発進Gが心地いい。今まで何度こうやって宙を飛んできただろう。
 あと何回、こうやって宙が飛べるのだろう。
「それじゃ、せっちゃん。私たちは予定通り地上で待機してるから。期待の新兵器、イナクトちゃんとのデート。楽しんできてねん」
 歌うように笑顔で言い放つと、予想通りの刹那の無機質な声が返ってきた。
『了解』
『刹那。戦況次第では地上から直接援護に入る。当たんなよ』
『了解』
 ただロボットのように表情一つ変えずに了解を繰り返す刹那に、ロックオンが若干苦笑してモニター越しにこちらに視線を送ってきた。
 肩をすくめてそれに応えながら、GN粒子の散布量を最大に変更し、大気圏突入モードに入る。
 単機で大気圏を突破できるMS…か。
 『彼』が聞いたら、なんて言うだろう。
 きっとものすごく興味を持つに違いない。
 何しろ彼はライトニング以上のMSバカだったから。





「やっぱ重力はいいねぇ」
 地上に降りて、機体の外に出る。
 視認される恐れのない山岳地帯。GN粒子の通常散布モードで索敵レーダにはひっかからないから、本当に便利な機体だ。
「しかもいい天気ッ! ピクニック日和ねぇ…」
 パイロットスーツのままヘルメットを外してライトニングが身体を伸ばしながら言うと、ロックオンの笑い声が返ってきた。
「弁当でも持ってくりゃよかったか」
 しかし、その眼は笑っていない。
 無理もない。彼にとって、そしてCBにとっても今日は初陣だ。
「んふふ…私おやつ持ってきちゃった」
「オーケイ。あとで報告書に書いとくぜ」
「うわわッ、タンマタンマ…」
 軽口を叩きあいながら、エクシアの動きに目を光らせる。
 不意に、ロックオンが言った。
「そういや、アンタの初陣はどんな感じだったんだ? ライトニング」
「んー…私の初陣ね…。一応戦果は二機撃墜…だったかな。正直、色々とそれどころじゃなかったけど。当時まだ15くらいだったし…」
「………若いな」
 15歳の少女兵が戦場で敵兵を倒したという事実が、既にロックオンの知る世界ではない。
 もっとも、この頃の彼は知る余地もなかったが、刹那もアレルヤも、その意味では似たようなものだ。
「その言い方、年寄り臭いわよん? 大体、刹那だってまだ16だし…」
「ははは。そりゃそうだ」
 笑いながら、つくづくこの世界は本当に狂っていると思う。
 軍隊があるからいけないのか、軍人がいるからいけないのか、武器があるからいけないのか。
 本当に悪いのはなんなのか。
 そしてふと思う。
 どうして彼女は戦争屋である軍人になろうと思ったのか?
 しかし、喉元まで出かかったその問いを、彼は必死の思いで飲み込んだ。
 ライトニングが元軍人であることは既に組織内で周知の事実だったが、それ以外の彼女の素性は秘匿義務によって伏せられている。
 訊く事は出来ない。
 ライトニングが突然口を開いた。
「ロックオン」
「ん?」
 考え込んでいて若干反応が遅れた彼に、ライトニングは真っ直ぐな眼で告げた。
「生き残りなさいよ」
「おいおい、俺に死ぬって言ったのはお前だろ」
「その言葉、全面的に撤回するわ。…今の君は強い。だから、生きて」
「………」
 今まで聞いたことがないほど真剣な声だった。
 やがて、機体からアラームが鳴り、コックピットに戻ってハッチを閉めながら、通信機でライトニングは言った。
『んじゃ、お先に行っちゃおうかしらね。初陣、思いっきり暴れてきなさいよ!』
 すっかり普段通りに戻った景気の良い声に、思わずロックオンも似たような声で返す。
「おう! 任せろ!!」
 GN粒子を飛ばしながら、 ブリューナクが空へと飛翔する。
 ロックオンの見上げた空に、軌道エレベーターから複数の機体が飛びたった。






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