dream

□第一話-ソレスタルビーイング-
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 スメラギからの紹介で新しく会った男を見た瞬間、ライトニングは何故か直感で思った。
 この人は…。
「…民間人…だよね?」
 珍しくどもった声で言うライトニングに、はきはきとした声でスメラギが答えた。
「そうよ。コードネームはロックオン・ストラトス」
「宜しくな! ライトニング…だっけ?」
 この軽い口調は嫌いではない。しかし…。
「スメラギ・李・ノリエガ。彼をスカウトした理由は?」
 本人を完全に無視して固い声で訊いてくるライトニングに、スメラギが表情を崩さずに説明した。
「射撃の腕が良かったから…と聞いているわ」
「それだけ…で、MSのパイロットに?」
 正気とは思えなかった。
 この組織は民間人の素人をMSに乗せて前線に送り出す気か?
「だからあなたに頼むのよ。しっかり教えてあげてね」
「答えになってないッ! 射撃の腕を買うなら砲撃手にでもすればいい…ッ。なぜ素人を…」
「落ち着いて。これは彼自身の意思でもあるの。軍人だって、訓練を受ける前は素人の民間人でしょ?」
「………了解」
 本心から了解したわけではなかった。
 しかし、この組織でパイロット養成担当者、およびパイロットとして生きている以上、これ以上ごねても仕方のないことでもある。
「訓練は明日から。今日は適当に自己紹介でもして、解散して頂戴」
「りょーかい」
 すっかりいつもの調子で軽く返事をするライトニングに苦笑して、スメラギがブリーフィングルームから出ていく。
「まいったな…素人は嫌いか?」
 二人きりになった部屋で、バツが悪そうに訊いてくるロックオンに少し笑ってからライトニングが笑顔で言う。
「死ぬよ? 君」
 その軽い言い方が本気であることを察して、ロックオンは声を出して笑った。
「おぉっと…そいつはヘビーだ」
 なるほど度胸があるのか馬鹿なのか。この男、態度だけは一人前だ。
「ライトニング・ランサー。改めて宜しく」
 それが、全ての始まりだった。



 そして、時が流れる。



「私、思えばあの時ロックオンに騙されたのよねぇ…」
 訓練室に灯りがつき、コックピットをそのまま再現したシミュレーション装置の扉が開く。
 何百回も使ってきたシミュレーション装置の椅子に脚を組んでもたれかかりながら、ライトニングは続けた。
「一体君のどこら辺が素人だったわけ?」
 隣の機械から出てきたパイロットスーツの青年が、ヘルメットを外して汗ばんだ髪を少しふりながら歩いてくる。
「よぉく言うぜ。ったく…。強すぎンだろ…お前」
 心底苦い顔で呟くロックオンの横顔に汗が流れる。
「んふふ…。まだまだ実戦を知らないひよこちゃん達には負けないけどね。…でも、正直ロックオンには驚いたよ。まさかここまでやれるようになるとは…」
 はっきりいって強い。そこら辺のエリート軍人と戦っても彼ならそうそう負けないだろう。
「ん…。見直した?」
 ロックオンが低く呟いた瞬間、ライトニングの軽い声が響きわたった。
「やっぱ師匠がよかったのね。私って天才ーッ!」
「ははッ、自分で言ってりゃ世話ねぇな。…んじゃ、俺は一足先に上がらせてもらうぜ」
「ちょっとちょっとッ、そりゃないんじゃないの? たまには私への感謝とか…」
「はいはい。すげー感謝してるよ」
 どうでもよさそうに言いながら手をヒラヒラふって去っていく後姿を見送ってから、ライトニングは小さくため息をついた。
 今日が、実戦に出る前の最後の訓練。
 ライトニングが教官として彼らが生き残るために何かしてやれる最後の日だった。
 間もなく、実戦が始まる。
 CB−ソレスタルビーイング−の戦いが。
 そうなれば、同じガンダムマイスター…パイロットとして共に宙を飛ぶことになる。
 運命の日は、すぐそこまで迫っていた。




 シャワーを浴びて汗を流す。
 さっぱりした身体とは裏腹に、ロックオンの心境は複雑だった。
「元ユニオンの軍人さん…ねぇ」
 一体どんな修羅場をくぐっていればあんな眼になるのか。初めて彼女に会ったとき、彼女が自分のことを素人と吐き捨てた意味がよくわかる。
 これが…「住んできた世界が違う」ということなのか。
 ライトニング・ランサー…。ロックオンより年下ということもあり、陽気な性格もあって普段は可愛らしい面が目立つ。それでいて賢くて、世界のことも驚くくらいよく知っていて、話していて楽しい。
 だが…。彼女の怖さは初めてシミュレーション戦で手合せしてもらえた日に嫌というほど思い知った。
 シミュレーションなのに、本気で殺されるかもしれないと思えるほどのプレッシャー。
 否。本気で殺しに来ているのだろう。
 きっと彼女は今まで多くの人をすでに手にかけていて…。
 そうだ。自分も殺すのだ。これから多くの人を。
 まだ少し濡れている髪をバスタオルで雑に乾かして、どさっとベッドに仰向けに横になる。
 ロックオン自身、自分が他の人間と違う世界にいるような感覚は昔からあった。
 当たり前だ。人間、自分自身が経験したことでしか本当の意味で理解なんてしないのだから。スクールで出会った友人はみんな親がいて兄弟がいて…。
 彼自身も昔はそうだった。
 彼の世界は、あの日からずっと時間が止まったままだ。
 でも、変える…。世界を。自分を。
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