dream〜2nd season〜

□Birthday!
2ページ/3ページ



「フェルト…ッ!! おい待てって…ッ!」
 必死に声をかけながらフェルトを追いかけるライル。微重力の廊下をすごいスピードで直進しているフェルトの片腕をつかんでようやく止めることに成功する。
 タバコを吸いに行くといって席を外した直後、物陰からこっそりのぞいているスメラギとイアンに合流したのだが、まさかあんな展開になるとは。
「……ライル…」
 沈んだ顔でこちらを見ているフェルトに、ライルができるだけ優しい声で話しかける。
「落ち着けって。あいつだって別に本気でいらないと思ってたわけじゃねぇって」
「…いらないって言いかけてた」
「い、いや…だからあれはだなぁ…」
 兄さん助けてくれと、どこにいるのかも知らない兄に胸中叫んでみるも、どうにもならず。
 仕方なく、ライルは自分流の慰め方を試みることにした。
「あいつも言ってたろ? それはフェルトが持ってるべきだって。要はそういうことさ。フェルトが寂しい思いをしねぇように言ってくれたんだと思うぜ?」
 何とか功を奏したのか、小さく頷いてから恋する少女は小さな声でつぶやいた。
「………どうしよう…」
「?」
「怒ってる…よね?」
 ふぅ…。と軽く息をついてライルはいつもの調子で言った。
「なら、謝ってこいよ。どうすりゃいいかなんて簡単だろ? いいか? リピートアフターミー」
 顔を上げて真剣な顔で軽く頷きながら次のライルの言葉を待っているフェルトに、男は軽い口調で言った。
「ごめんなさい。本当はあなたが好きです。愛してます。あなたの彼女になりたいです」
「………ッ!!」
 瞬間、気の毒なフェルトの叫び声が響いた。
「無理ッ!!!」





「お前はミレイナと同レベルかよ…」
 ラッセの呆れた声とスメラギの冷たい視線がライルの体に容赦なく注がれる。
 ライルが疲れた表情で言った。
「んで? シヴァはどうした?」
 スメラギが眉にしわを寄せて返す。
「よりによって、今日から地上よ。さっきトレミーを発ったわ。ちょっとしたミッションがあるついでに、例の組織の件も調べてくるって言ってたし、しばらく帰ってこないでしょうね」
「なんっつータイミングで…」
 頭を抱えるライルに、ラッセが悟りきった声で言った。
「ま、ある意味このままギスギスするより良かったかもな。いったん冷却期間を置くってのも手だろ」
「そうね。ついでだから、フェルトとミレイナにも地上までおつかいを頼んだわ。おつかいついでに、しばらく休暇を出すから気晴らしに二人で買い物でも行って来たらって言っておいたけど…」
 ライルが苦笑しながらスメラギに言った。
「ナイスフォロー。さっすが戦術予報士。ついでに俺にも休暇とか…」
 遮るようにスメラギが言った。
「マイスターは機体の整備の手伝いを頼みたいの。あとで刹那が戻ってきたら詳しく話すけど、例の件、思ったより大きなミッションになるかもしれないわ」
「シヴァが調べに行った件か?」
 頷いて、スメラギは続けた。
「テロに誘拐、下手をすればかなり大きな人身売買のルートが絡んでるかもしれない。シヴァが証拠を挙げてくれたら、すぐに動いた方がいいわね」





 証拠はすぐに大量に挙がった。
 数日後、シヴァが持ち帰った大量のデータを眺めながら、鋭い目で刹那が呟く。
「誘拐した人間のうち、男は中東ゲリラへ兵として販売…」
 コンソールの資料をめくりながらシヴァが続けた。
「ちなみに女は慰問用として販売。どちらも小さな子供から成人まで年齢問わず。買い手がつかなかった売れ残りは解体して臓器密売と無駄がねぇ。ま、金になれば何でもいいって感じだな」
 乾いた声でライルが呟いた。
「頭イカれてんだろ…こいつら…」
「そして稼いだお金はテロの活動資金…。ここまでやっておいて未だに無傷なのは、いくつかの国の要人が組織のトップと絡んでるのが原因ね。そっちさえ潰せば後の始末は統一政府に任せて大丈夫だと思うわ」
 重い声で淡々と話すスメラギに、いつもの軽い表情を完全に消し去ったマイスターの顔でライルが訊いた。
「連中が集まってる時を狙って、この中枢基地ってのを吹っ飛ばすんだな」
 シヴァが苦い表情で返した。
「…いや、まだ生きてる被害者が中にいる可能性もゼロじゃねぇ。この組織の場合、誘拐されてから売られるか殺されるかして捌かれるまであんまり時間がねぇから生きてる人間は少ないかもしれねぇが……それでもいきなり全部吹っ飛ばすのは俺は反対だ」
「助けよう」
 言い切って視線を集めてから、刹那は続けた。
「このミッションプランなら、外の戦闘はガンダム一機で足りる。その間に、俺とシヴァで可能な限り中の人間を助けて脱出する」
 ライルが景気良く叫ぶ。
「オーライッ! んじゃ、お前らが出てくるまでの戦闘と、その後の始末は任せろよ」
 スメラギが真剣な声で刹那に返した。
「できなくはないけど、あまり時間はないわよ。シヴァがハッキングで基地の自爆装置を止めてくれるとはいえ、連中が強硬手段に出ないとも限らない」
「そん時はライルが俺らもろともガンダムで狙い撃ちだな」
 目が笑っていない笑顔で軽く冗談を飛ばすシヴァに、ライルが心底嫌そうに返す。
「狙い撃っても死なねぇくせに…」
 ほんの少し和らいだ空気の中で、刹那が不意に小さな声で言った。
「フェルトとミレイナはどうした?」
 軽い口調でスメラギが返す。
「ああ。二人とも少し前から休暇でいないわよ。そろそろ帰ってくる頃だと思うけど、どうかしたの?」
 しばらく考えてから、刹那は無表情のままでつぶやいた。
「……いや、なんでもない」





 地上でミレイナと二人、スメラギからのおつかいを片付けて気晴らしにショッピングを楽しむ。雑貨屋で小物を手に取っているフェルトに、ミレイナが横から目を輝かせた。
「それ、可愛いです! シンクレアさんへのリベンジですか?」
「ど、どうしてそうなるの…ッ!? 私はただ…自分で…使おうと思って…」
「ふっふっふ…。乙女の目はごまかせませんッ! それはペアアイテムです」
「えッ?! そうなのッ?! ち、違…気づかなかっただけで…」
「正直、ちょっと羨ましいです。ミレイナの大好きな人は…贈り物とかできないところにいますから」
 笑顔のまま、少しトーンを落として話すミレイナに、フェルトが落ち着いた声で言った。
「…手紙、書いてみるとかどう?」
「手紙ですか?」
「うん。私もね、たまに書くの。パパやママや…あと、前にこのお店に一緒に連れてきてくれた人とかにも」
 あの頃は高いテンションで無理やりフェルトを連れまわすクリスに、少し疲れることもあったけど。彼女とのショッピングが楽しかったことも事実。
「シンクレアさんは生きてるから手紙は書かないです?」
「そ、そういうわけじゃないけど…ッ。…やっぱり、みんなの言う通りなんだと思う。自分の気持ちは、ちゃんと口に出してきちんと相手に伝えなきゃ…」
 紅潮した顔で、恋する乙女が叫んだ。
「ミレイナもお手伝いするですッ!!」
「ありがとう、ミレイナ」
 綺麗に染まったピンク色の髪が、かわいらしい笑顔に揺れた。





 短い休暇が終わって、トレインに乗る。
 疲れたのか、ミレイナは機内食を食べるとフェルトの隣の席で早々に眠ってしまった。
 大きな荷物はすべて預けてしまって、手回り品の小さなバッグから、購入した小物を出して手に取る。これなら…今度はうまくいくだろうか。誕生日はもう過ぎてしまったけれど。ミレイナも一緒に一生懸命考えて選ぶのを手伝ってくれた。妙に落ち着いた気持ちで隣で眠っているミレイナを見る。本当によく寝ている。
 そういえば、今日は周囲の客もやたらと眠っている人が多い。もうそんな時間だったろうか。窓の外が常に暗いため、フェルトが時計を確認しようとした時だった。
 強烈な眠気と共に視界が霞む。
「………ッ!? これっ…て…」
 これは、普通の睡魔ではない。
「ミレイナ…ッ!!」
 慌てて起こそうとするが、体が言うことを聞かない。
「スメラギさん…に……れん…らく…」
 カク…と、糸の切れた人形のように力の抜けた腕から、通信機が滑り落ちていった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ