dream〜2nd season〜

□足跡
1ページ/3ページ



 トレミーで優雅に紅茶を飲んでいる男に、ピンクの髪の少女が何度も何度も訊いたことをもう一度質問した。
「ねぇ、ホントにどうして急にトレミーに戻ってきたの?」
 それも半年ぶりに。カップの紅茶の中に含み笑いを隠して、シヴァが楽しそうに笑った。
「お前の淹れてくれる紅茶が飲みたかったんだよ」
「………それだけ? 本当に?」
 目を伏せて男は答えた。
「いや、実はもう一つ…」
「え…?!」
 やっぱりそうだったのかとフェルトが顔を上げた瞬間だった。好戦的な笑顔でシヴァは言い放った。
「フェルトに会いたかった」
「………ッ!!」
 真っ赤になって男に背を向けてから小さな声で呟く。
「……………馬鹿」
 大きな声をあげて笑うシヴァの機嫌のいい声が部屋に響いた。





「フェルトに何か言ったのか?」
 喫煙室で笑いながら訊いてきたライルに笑って返す。
「いや? 何か言ってたか?」
「…さっきお前さんの事を訊いたら真っ赤になって『知らない』ってさ」
 煙を吐きながら楽しそうに笑っているシヴァに呆れるような視線を送った後、低い声でライルが訊いた。
「……見つかったのか?」
「んー…どうだろうな」
「勿体つけるなよ。お前が戻ってきたってことはそういうことなんじゃねぇのか?」
 機嫌良さそうに笑いながら、シヴァは言った。
「……みんなの顔が見たくなっただけだ。本当に…それだけだ」





 個室で酒の入ったボトルを片手にスメラギが眉をしかめる。
「なぁにが『本当にそれだけ』よ。ちゃっかりいいボトル持っていくんじゃない」
 ひゅうッと喉を鳴らして男が嬉しそうに笑う。
「2290年のレアものか。流石ミス・スメラギ! どこで手に入れてきたんだ? これ」
「内緒よ。それより、それを持っていくってことは…」
「おぉっと…そこから先は俺も内緒だ」
「酒代に教えなさいよ。…見つかったの?」
「見つかった…」
「………ッ!!」
「……かもしれないし、見つかってないかも…な」
 タチの悪い笑顔で笑っている男に、スメラギがため息をついて呟く。
「あなたに訊いた私が馬鹿だったわ。まぁ、『もし見つかったら』分けてあげて。そのボトル、ラグランジュ3で奇跡的に生き残ってた一本なの。五年前にライトと二人でこっそり隠して…。彼女、それを呑むの楽しみにしてたから」
 年期の入ったシックなボトルを細い眼で眺めながら、シヴァが低い声で呟いた。
「……そうか」





 格納庫で機体の整備をしてくれているイアンを手伝う。苦笑してイアンが言った。
「たまに帰ってきたんだから、ゆっくり休んどれ。人の仕事をとるもんじゃない」
「…イアン。後継機の基本設計資料見たぜ。GNドライブ周りのシステムな。いくらシナジー高いからってあそこまで全機で俺のシステム起用してくれなくても……」
「不満か? お前さんの自慢のプログラムだろうに」
「だからって過剰すぎンだろ。気ぃ遣ってくれてんだったら別に…」
 意味深な笑顔でイアンが言った。
「確かにアレはわしの一存で多用させてもらったが…。別にお前さんの為じゃない」
「……?」
 あれは…確か四年前だった。
「ブリューナクとトリシューラの設計についてライトと話したことがあってな」
「…………」
「ま、わしの粋な計らいって奴だ。なんたって…ライトとわしはあのシステムの元々の開発者の大ファンだからな」
「……………知ってたのか? 俺たちの本名」
 読めない表情で技術屋は笑った。
「知っとるよ。…今はな」
「イアン。……さんきゅ」
 珍しく素顔で切なげに微笑んだ青年の肩を、中年技術屋が楽しそうに笑って軽く叩いた。





「…ということで、またしばらくトレミーを離れる。あと頼むぜ。刹那」
 エルミナそっくりの満面笑顔で言ってくるシヴァに、刹那が無表情に返す。
「ああ。問題ない。…それに」
「ん?」
 極々わずかに微笑んで、刹那は言った。
「次に戻って来るときには、良い報せを聞かせてくれ」
 刹那相手に誤魔化す気にもなれず、苦笑してシヴァが返す。
「…ああ。行ってくる。……刹那」
「……?」
 真剣な顔で男は言った。
「お前自身が自分の力をどう考えるかはお前次第だが…」
「………」
「…もし、次に俺がここへ戻って来るときにお前にいい報告ができるとしたら、それはお前のおかげだ。どう考えても助かる余地のなかったあいつを…お前がその力で救ったんだ。……俺はお前に感謝してる」
 驚いたように少し目を見開いて絶句した後、黒髪の青年は小さく笑った。極々小さなものだったが、本当に嬉しそうに。





 隣にいる彼女に突然笑いかけられて、戸惑う。
「…? どうかした?」
 今回の目的地の寺院はもうすぐだ。
 不思議そうにこちらを見ているアレルヤに、マリーが静かに笑いながら言った。
「なんだか。今日はいいことがありそう」
 歩きながら、アレルヤがつられるように笑う。
「へぇ…いいことか。なんだろう」
 確かに今日は天気がいい。
 それから、風が気持ち良くて過ごしやすくて。
「いい天気ね…」
 二人で空を見上げる。
「ああ、本当に」





 マリーの言う「いいこと」は割とすぐに判明した。
「よぉ、遅かったな」
 参拝者に解放されている休憩所で二人を待っていた満面笑顔のこの男。
「シヴァ!! どうしてここに…ッ?! まさか参拝?」
 喜色を含めた声で驚いているアレルヤに、笑顔のままシヴァが返す。
「なわけねぇだろ。俺はCBで二番目に神を信じない男だからな」
 無論、一番は刹那である。
 くすくす笑いながらマリーが言った。
「わざわざ会いに来てくださったんですね。でもよくここがわかりましたね」
「お前らの足取りはわかりやすいからな。…どっかの奴らと違って」
「ん?」
 小首をかしげているアレルヤに、シヴァがにこやかに言った。
「こっちの話だ」
 シヴァが『あの二人』を探していることはアレルヤもマリーも知っていた。
 アレルヤが落ち着いた声音で訊く。
「それで、僕らに何の用だい?」
「何の用ってほどでもねぇんだけどな。お前らが元気にしてるか見に来ただけだ」
「そう…なんですか?」
 流石のマリーも少し驚いて思わず訊き返す。
 アレルヤが訝しむように言った。
「本当に、それだけ…?」
 少し真剣な声で男は答えた。
「まぁ、でかい勝負の前に仲間の顔が見たくなった…って奴だ。…今回の相手は手ごわいからな」
 その表情から事態の深刻さを感じ取ってアレルヤが低い声で言った。
「…手を貸そうか?」
 マリーもアレルヤとよく似た表情をしていた。
 軽く笑って男は言った。
「気持ちだけもらっとく。幸運を祈っててくれ。お前ら二人がついててくれりゃ、いもしねぇ神なんかよりよっぽどご利益がありそうだ」
「……わかったよ」
 静かに笑ってくれたアレルヤとマリーに別れを告げて、再びガンダムに乗る。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ