dream〜2nd season〜

□第二十五話-未来のために-
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 ヴェーダと繋がっている機体が次々と停止していく。
 ティエリアとリジェネがヴェーダを掌握したことにより、次々と戦闘が終わっていく中で。
 停止したMSの中で必死に足掻き続ける男がいた。
「何がどうなってやがる…ッ! くそ…ッ!! 動けってんだよッ!!!」
 いくらやっても反応のないMSをガチャガチャやり続けていたサーシェスが息を飲んで正面を見つめる。
「兄さんの事を責められねぇなぁ…」
 ケルディムの中で、ライルが口元だけで笑った。
 今ならわかる。
 あの瓦礫の前であの日のニールがどんな気持ちだったか。
 理解できる。
 目の前の男のしたこと。自分たち兄弟が…大勢の人たちが失ったもの。
 そして。四年前この男と戦ったニールの気持ちが。

「こいつだけは許せねぇッ!!」

 トリガーを引く。
 動かないサーシェスの機体に何発も撃ちこんで、静かに目を閉じる。
 兄さん…これで…。
 胸中で呟きかけた瞬間、モニターから生体反応の音が鳴った。
「……ッ!」
 慌ててカメラで追うと、機体から脱出する男の姿が見えた。
「待てよ、テメェッ!」
 すぐにコックピットから降りて後を追う。
 薄暗い通路を逃げ続ける男の背後から一発撃って動きを止める。
「そこまでだ…ッ」
 ライルの弾は狙い通り完璧にサーシェスの右肩を直撃し、男は逃走を諦めて銃を放して両手を上げた。
 背中を向けたまま両手を上げている男に、背後から銃を向ける。
 男の背中を、ライルの瞳が凝視していた。
「こいつが………」
 目の前のこの男が。
 こいつが…父さんも…母さんも…エイミーも……ッ。
 トリガーに力を込めた、その瞬間だった。

『ライル…。私たち、分かり合えてるよね?』

「………ッ!!」



『分かり合えたよね』




 ライルの愛し愛された女性が、あの優しい笑顔で笑っていた。
 人と人は……。
「……………………」
 ゆっくりと、ライルが銃口を下げる。
 瞬間、サーシェスが怒鳴りながら銃をとって振り向いた。
「馬鹿がッ!!!」
 銃声が響く。
 ライルが兄以上に得意とした近距離の早撃ち。不意を突いたつもりのサーシェスがライルを撃つよりもずっと疾く。
 ライルの銃弾は完璧に男の額をヘルメットごと撃ち抜いていた。
 振り向いた男の眼に最後に映ったのは、自分に銃口を向けているモスグリーンのパイロットスーツの男と…そして。
 その背後でその男に重なって、全く同じ姿勢で自分に銃口を向けているもう一人の男の姿だった。





 アニュー。

 お前のおかげで、人と人が分かり合える世界も…不可能じゃないって思えたんだ。


 だから。

 世界から疎まれても。
 咎めを受けようとも。

「俺は戦う」



 ソレスタルビーイングの…ガンダムマイスターとして。





 同刻、戦闘はほぼ収束しつつあった。
 カティとエルミナの作ったクーデター派の艦隊とカタロン部隊によってアロウズ本隊は壊滅。
 アロウズの新型機やイノベイター達の乗る特機もヴェーダとリンクしていたためにティエリアの発生させたトライアルフィールドによって無力化され、戦闘可能な機体は残っていない。
 終わった。誰もがそう思った瞬間だった。
 トレミーに悲鳴のようなフェルトの声が響く。
「セラフィム大破…ッ」
「ティエリアはッ?!」
 反応はなかった。
 必死にティエリアの無事を確かめようと探し続けるブリッジに、ヴェーダからの通信が届く。
「バックアップから外れている新型機が、ダブルオーと交戦していると…」
「新型機ですって…ッ?!」
 それは、イノベイターを超えるイノベイター。
 ウロボロスのコックピットの中で、シヴァが低い声で呟いた。
「リボンズ・アルマークか………ッ」





「感謝して欲しいな…。君がその力を手に入れたのは、僕のおかげなんだよ? 刹那・F・セイエイ」
 ダブルオーに乗った刹那の前で薄く微笑む機体の中のリボンズに、刹那が低い声で返す。
「俺を救い、俺を導き、そして今また、俺の前で神を気取るつもりか…ッ?!」
『いいや、神そのものだよ』
「そこまで人類を支配したいのか…ッ」
『そうしなければ人類は戦いをやめられず、滅びてしまう。救世主なんだよ、僕は』
「共に歩む気はないと…? 分かり合う気はないのか…ッ?!」
 神のように刹那を見下ろしながら、イノベイターは吐き捨てた。

『人間が自分たちの都合で動物たちを管理するのと同じさ』

「………ッ」
 刹那の脳裏に、かつてメメントモリで聞いたエルミナの声が響く。
『…い…やだ……嫌だ……やりたくない……や…嫌………も…ッ、…ぃや……嫌…イヤ……』
 こいつのしようとしていることは…してきたことは…刹那が一番良く知っている。
 …倒さなければならない。
 恨みでもなく、ただの破壊衝動でもなく。
「そのエゴが世界を歪ませる…ッ。貴様が行った再生を、この俺が破壊するッ!!!」
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