dream〜2nd season〜

□第二十四話-trust you-
1ページ/3ページ



 17年前。育ての親がテロで死んで、ようやく落ち着いてきた頃、施設の人間と名乗る大人がやってきた。曰く、君たちは別の施設に引き取られることが決定した。行先はもう決定している。
 そう…どんなに粋がったところで、自分たちはまだ11歳の子供だったということだ。
 兄と自分の行先を確認させてもらった瞬間、すぐにわかった。まただ…! また兄は自分の為に犠牲になることを一人で勝手に決めた!
 問いただしても、いつものように兄は何も教えてくれなかった。どうして双子なのに自分たちは平等になれないのか。エルミナから持ちかけた兄妹喧嘩は毎度のごとく言い合いに発展し、無言でどちらかが部屋から出て行くまで怒鳴り合いが続く。
 今回出て行ったのはエドワードだった。
 兄がいなくなった部屋で、たった一人で数時間。ただただ後悔だけが小さな少女の心を覆っていた。
 後悔。叔母や叔父だってそうだ。いなくなって初めて後悔して。あのわからずやでカッコつけの兄ですら…もうすぐ…会えなくなるのに…。





 無数のビームが飛び交う中、ニールの叫び声が通信回線に乗る。
『エルミナッ!! 聞こえるか…ッ?!』
 機械のように一ミクロも理想モーションを外さない正確な動きで回避、狙撃を繰り返す機体の中で、瞳孔の開いた眼でエルミナが呟く。
「…目標の回避パターン、解析………狙撃パターンを修正………」
『………ッ!!?』
 それは、まさしくエルミナが言っていたような状況だった。以前のように、説得できるような状況じゃない。
 バハムートの中で、それでもニールが通信をオンにしたまま叫ぶ。
「エルミナ…ッ!! 頼むから聞いてくれ…ッ!」
 話す間もエルミナからの攻撃は続いていた。バハムートのサポートシステムを駆使して回避し続けていたが、回数を重ねるごとにどんどん追い込まれていく。
『……目標損傷率、軽微……。攻撃を続行…』





 もう後悔したくないからと泣いて謝ったエルミナに、兄は施設を出たら絶対に迎えに来てくれると約束してくれた。
『俺なら世界中どこにいたってお前を探すくらい楽勝だ』

 その言葉を信じた。

 結局大人の言いなりになって連れてこられた知らない施設で、エルミナは彼女なりに頑張った。
 笑顔で明るく振る舞って、少しでも出来のいい人間でいようとした。いい子になれば…それが叔母や叔父へのせめてもの罪滅ぼしになると信じて。
『…そう。きっと、そのおばさん達も喜んでると思うわ。ねぇ、エルミナちゃん』
 顔もよく覚えていないが…若いその女性は施設の先生…だった気がする。
『え? ここを出たら…ですか?』
 その施設に来て、初めて無意識に笑えた気がした。

『えっと……まだはっきりとは考えてない…です。けど……なんでもいいから、人の役に立つ仕事がしたいです』

 先生も、笑っていた。
『とても…素敵だと思うわ。頑張ってね』





 際どい一撃を間一髪でかわしたニールの顔を汗が伝う。学習する機械のように、戦いの中でエルミナの反応速度と適応力はどんどん上がっていく。
 これが…彼女の力か。
「本当にもう…完全に精神崩壊しちまったってのか……エルミナ…ッ!!」
 苦肉の策で必死に考えた奇策でなんとか彼女の不意を突いて一撃かすめることに成功する。
『…………』
 動きが止まった相手の機体に必死で叫び続ける。
「たとえ壊れたって…ッ、お前なら乗り越えられるッ!! 俺が…絶対に助ける…ッ! エルミナッ!!!!」
 返ってきたのは、生気のない冷たい言葉だった。

『…損傷軽微。ミッションを続行』





 気が付いたら、地獄の底にいた。
 施設の大人の言いなりで連れてこられた知らない建物の中で、小さな部屋に閉じ込められる。やがて、見たことのない大人に連れ出されて別の部屋に放り込まれた。
 中にいたのは10人ほどだっただろうか。すべて男性だった。
 外から鍵をかけられた狭い部屋の中で、逃げようとするエルミナを押さえつけて最初の1人が有無を言わさず暴行を加え、激痛に泣き喚く彼女を残りの9人が押さえつけていた。
 似たような行為が数回相手を変えながら繰り返された後、息も絶え絶えにエルミナが口にした一言。
『…先生………助…けて…………』
 苦痛と恐怖で顔をぐちゃぐちゃにして泣いている彼女に、囚人の一人が笑いながら教えてくれた。
 その人間が金でお前を売ったんだと。
『……う…そ……なん…で…? だって……先生……』
 お前のトコの先生は残酷だよな? 優しそうな顔して…さ。

『とても…素敵だと思うわ。頑張ってね』

『ぁ………あ……あ…ぁ…』
 心が、歪んでいく音が聞こえるようだった。
 同時に、この状況から逃れる術が一切ないことを一瞬にして理解してしまい、目を見開いたままガタガタと全身が音を立てる。
 絶望している彼女の顔を覗き込んで、男は続けた。
『ま、そういうことで。殺してもいいって聞いてるからぁ?』
『…ぃッ、…嫌ぁぁあ……ッ!! お願い助けて…ッ!! やだ…ッ、お願いだから…ッ』
『んじゃ、最初は人差し指からいくか』
『ひ……ッ、ゆ、指って…嘘……ぃ、嫌…ッ、お願いやめてぇぇぇッ! 誰か…助けてッ』
 助けてくれ。
 それほど無意味な言葉は他にない。子供が手すさびに小枝でも手折るように、それはそれはあっさりと。骨の砕ける音が鳴る。
 濁った絶叫が迸った。





 爆音が響く。コックピットの中に警報音が響き、コンソールが赤く光っていた。
 損傷甚大!
 その文字を忌々しそうに見つめながら、ニールが必死に機体を操る。
「…ッ、エルミナ…ッ、……く…そ……ッ」
 エルミナの機体の急所に狙いをつけてトリガーに指をかける。
『……目標の中破を確認』
「……ッ!! 狙い撃つ…ッ」
 声が…震えていた。
 撃てよ。狙い撃てよ。ニール・ディランディ。
 助けてやれないなら、せめて楽にしてやるしかないのに。

「…………ッ!!」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ