dream〜2nd season〜

□第二十三話-ニール・ディランディ-
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「ヴェーダの場所がわかった…ッ?!」
 刹那が持ち帰った情報によると、そのポイントは月の裏側だった。
 提供したのは、王留美。
「…あの謎の通信は彼女だったのか。でもなんだってあんな場所で…」
 いつものように接触してくるか、送信してきても良かったはずだ。ニールの言葉をシヴァが続ける。
「しかも今のこの状況でトレミーへの乗船を拒否…。刹那、コロニーの中で他に何か変わったことはなかったか?」
 トレミークルーの全員の視線が集中する中、刹那が無表情のまま呟いた。
「…コロニーの中で、ライトに会った」
「……ッ?!」
「王留美に頼まれて彼女をコロニーまで送ってきたと言っていた。…かなり具合が悪そうだった。……おそらく…何かに取り込まれかかって…」
 フェルトが苦い顔で訊く。
「刹那…。連れて帰ってくることは…」
「本人が自分の意思でそれを拒絶した。事が済んだら戻って来るとも言っていたが…」
 黙って俯いてしまったフェルトにシヴァが言った。
「…現時点でまだ生きてることだけは確かだ」
 顔を上げてしっかりと頷いたフェルトを見て少し微笑んでから、スメラギがシヴァに訊いた。
「王留美からの情報…。あなたはどう思う?」
「…トントンだな。怪しさ全開なのは言うまでもねぇが、実際に指定されたポイントに光学迷彩で隠された巨大物体があったとなると…」
「それ自体が罠…って可能性は?」
「それもなくはねぇが…一番自然なのはイノベイターの中に裏切り者がいるって線だ」
「イノベイターの中に…ッ?!」
 声を上げたのはティエリアだった。
 楽しそうに笑ってシヴァが続ける。
「イノベイターにだってリボンズ・アルマークの考えに賛同出来ねぇ奴もいる。だろ?」
「……………」
 黙ってしまったティエリアに、男は続けた。
「現にアニューだって最後は自分の意思でこっちに戻ろうとしてたんだ。だからリボンズは強制的に彼女を操作した。イノベイターの中に意思が強くてリボンズが気に入らねぇ奴が他にもいたって不思議はねぇ」
「君はその裏切り者が王留美にヴェーダの場所をリークしたと…?」
 ティエリアの言葉に、シヴァが真顔で言った。
「…はっきり言うぜ。俺がリボンズだったら王留美は間違いなく利用する。アロウズとCBの両方にパイプがあるからな。王留美は利用されてさぞかし不愉快だったんだろうよ。もしかしたら、イノベイターの連中の中では人間の彼女は待遇があまり良くなかったのかもな。それを知って彼女にあえて正しいヴェーダの位置を教えた。……んなとこだろ。そして裏切った以上、もう彼女に利用価値はねぇ」
「ま…さか……消され…」
 乾いた声で呟きかけたスメラギの言葉を遮ってニールが訊いた。
「つまりお前の言う裏切ったイノベイターが王留美を利用してヴェーダの情報を俺たちに流したことを、リボンズは気づいてて放置してたってのか? んなこと…」
「勝てると思ってんだよ。エルのことにしてもそうだ。泳がせすぎなんだよ。エルが何をしようが、裏切り者が何をしようが、俺らにヴェーダの位置がばれようが、最終的に自分の勝ちは絶対だと思ってやがる。こりゃ相当な自信家だな」
 笑っているシヴァに、真剣な顔でアレルヤが呟いた。
「だからトントン。指定ポイントにヴェーダがあったとしても、確実に…」
 スメラギが苦笑して小さく呟いた。
「待ち構えてるでしょうね。いろいろ用意して」
 透明な眼で、シヴァが言った。
「俺は行くぜ。エルミナが好きだった世界のために」
 そして俺を…俺たち兄妹を救ってくれた仲間のために。
 男が胸中呟いていると、ライルが強い口調で言った。
「…そうだな。目的が違っても、俺たちはあそこへ向かう理由がある」
「そして、その想いは未来に繋がっている。俺たちは、未来のために戦うんだ」
 言い切った刹那にニールが軽く笑う。
「過去と他人の思いは変えられないが、未来と自分は変えられる。俺も変わるぜ。…俺を待っているあいつのために」
 強く頷いてティエリアが続けた。
「イノベイターの支配から、人類を解放するために」
「僕やソーマ・ピーリスやライト姉さんたちのような存在が、二度と現れないようにするために」
 真剣な顔で次々と口を開くティエリアとアレルヤに続いて、いつもの軽い口調ではなく真剣な表情でライルが言った。
「連邦政府打倒が俺の任務だ。イノベイターを狙い撃つ。そして…」
 閉じた瞼の中で、淡い色の髪の女性が笑っていた。
 ライルが再び顔を上げた瞬間、刹那が全員に言った。
「俺たちは変わる。変わらなければ…未来とは向きあえない」
 今度こそ…変わる。

「行こう、月の向こうへ」





『あのね、ニール』
 光の中で、柔らかい髪が揺れていた。
『いつか、アイルランドで一緒に景色を見たよね』
 そうだ…あれは、いつだったか。
『あの時…少しだけだったけど、幸せになれた…気がした』
 ニールの記憶の中のエルミナは、相変わらず笑っていた。
『あの時、世界が本当に綺麗だって思えた。私がいて、あなたがいて。この世界にいて、良かったって…』
 ニールだってそうだ。
 この世界には…彼女がいる。
『この世界は…歪んでいて、間違っていて…けど、この世界は私とあなたが出会った世界…だから』
 ああ。もう四年前の…今までの自分とは違う。
『世界と向き合って』
 まかせろ。
 胸中で低く呟いて、出撃直前のコックピットの中で口に出す。
「待ってろよ。エルミナ」
 ブリッジのフェルトに応えてから、そっとコンソールに触れた。
「一緒に行こうぜ。……バハムート」
 お前の母さんに会いに。
 呼応するようにバハムートがカタパルトから発進する。
 月の向こうの未来を目指して。
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