dream〜2nd season〜

□第二十一話-迷宮の囚人-
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「うあぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああッ!!!」

 ライルの叫び声に混じって、鈍い音が断続的に廊下に漏れていた。
 刹那は黙って殴られていた。
 周囲の人間は、誰も止めなかった。
 慟哭と打擲の音だけが木霊する中、刹那の遠い意識の中で聞こえていた。

 歌が。





 頭が重い。
 一体…今度は何をされた…?
 兄さんは…気づいただろうか?
 考える間もなく、エルミナは自機で宇宙へ飛び出した。
 今頃、猫中尉は心配しているだろうか?
 生存アラートは鳴らしておいたが、今の状況で安易に通信を入れると彼の身が危うくなる。
 機体を操縦しながら、ふらつく頭を叱咤した。
 重い頭に、歌が響く。
 先週カフェのラジオで聞いた歌の同じフレーズが、何度も…何度も。
 リジェネ・レジェッタと名乗ったティエリアそっくりのイノベイターがエルミナを助け出した後、渡してきた情報。
 王留美が殺されかけている。
 君にとっては昔の仲間だよね?
 ああ、その通りだ。その通りだが、一体彼は何故エルミナにその情報を…。イノベイターである彼が…。それ以前に王留美は今までどこで何を…………。
 ダメだった。頭が…意識が、混濁する。
 あの歌が聞こえる。
 どうしてこんな時に、あんな呑気な歌が聞こえ続けるのか。時折、どこかで聞いた歌が延々頭で流れ続けて離れなくなるのは何故だろう。子供の頃から不思議で仕方がなかった。





「……ッ!」
 有視界領域に攻撃を受けている宇宙船を発見する。…やはり、一応情報は本物か。
 だとすれば、一体誰が…?
 最大速度で機体を飛ばしているエルミナが一般回線を受信した瞬間だった。
『……何でも持ってるくせにもっともっと欲しがって、そのくせ中身は空っぽ…ッ!』
「この声は…ネーナ・トリニティ?!」
 ネーナの声が続く。 
『私ねぇ…そんなアンタがずっと嫌いだったの…』
「まずい…ッ!!」
 武器を抜いて突っ込む。

『だからさぁぁ…死んじゃえばいいよぉぉぉッ!!!!!」

 まさにとどめを刺そうとしていたネーナの機体をエルミナが横から突っ込んで吹っ飛ばす。
「……………ッ!? 誰ッ?!」
 驚くネーナを無視して沈みかけている船に通信を入れる。
『王留美…ッ』
 爆発音が響く艦内で王留美が叫んだ。
「…その…声は…ライトニング・ランサー…ッ?!」
「何故貴女が…ッ?」
 目を丸くしている紅龍に通信機からの声が響く。
『脱出して…ッ』
「無理ですッ。艦内のコントロールが一切効かなく…」
『わかった。待ってて。……助ける』
 通信機を切って、目の前のネーナと対峙する。
 この状況で彼らを助けるには船が沈む前にネーナを倒して、二人をエルミナの機体で救出するしかない。今の体調では…ギリギリだが。
『誰かと思ったら……ッ。アンタまだ生きてたのッ?!』
 こっちに撃ってくるネーナの攻撃をかわしながら通信を入れる。
「あらら? どこかで会ったかしら? 覚えがないわねぇ」
『な…ッ! 私を忘れたって…ふざけんじゃないわよッ! このヤラれ女がッ!!!』
 くす…と、嫌な笑い声が通信機越しにネーナの耳に聞こえてきた。
『んふふ。口が悪いわね、ネーナちゃん。お兄さんに似てきたんじゃない?』
「…そうやって…いつまでも人を見下して…ッ! アンタ、自分が使い捨ての道具だってわかってないでしょ?」
『んふふ。昔のあなたたち兄妹と同じよね。…ああ、あなたは今でも道具のままなのかしら? それとも、いらなくなって捨てられちゃったのかしら?』
 柔らかい口調とは裏腹に吐かれる辛辣な言葉に、ネーナが激昂する。
「こんの………ッヤラれまくりのクソ女ぁぁぁああああッ!!」
 声をひっくり返して怒鳴っているネーナの単調な攻撃を軽くかわし、機体を中破させて宇宙船ごと二人を救出する。
 まともに戦える状態になかった絶不調のエルミナがそこまでできたのは奇跡に近い。
 相手が口車に乗ってくれてよかった。





 自分の機体に二人を避難させて、狭いコックピットの中で話を聞く。ヘルメット越しにもわかる体調不良のエルミナに、紅龍が頭を下げた。
「我々を助けていただいたことは感謝します。その…お身体は、大丈夫ですか?」
「……まぁ、機体を操縦できる程度には何とか…ね。それにしても王留美、すっかり美人になっちゃって…一瞬誰だかわからなかったわよん?」
 まぁ、元々四年前もエルミナは彼女とあまり関わってはいなかったが。
 笑っているエルミナに、王留美が真顔で返す。
「…そんなことより、何故貴女が我々を? 今の貴女に、私たちを救出するメリットはあって?」
 小さく笑ってエルミナは答えた。
「まぁ、昔の仲間が死にかけてたら誰だって助けるわよ。情報をくれたのがイノベイターだったってところが引っかかるけど」
「イノベイター…?」
「リジェネ・レジェッタ。覚えはある?」
「……なるほど。合点がいきました。エルミナ・ニエット。貴女、今でもCBに協力する気はありますか?」
「……トレミーと接触する以外なら」
「構いません。何も訊かずに今から指示するポイントに私たちを連れて行ってさえ下されば」
「あいっかわらずの秘密主義ねぇ。ま、いいけど。宇宙のど真ん中で放りだすわけにもいかないし、助けた以上、あなたたちの目的地までは送って行ってあげるわよ」
 それに、ネーナが追いかけてこないとも限らない。せめて体調が…これ以上悪化しなければいいのだが。
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