dream〜2nd season〜

□第十九話-交錯する想い-
1ページ/3ページ



『はぁ〜い、ルイス。元気してる?』
 通信機の中でウインクするテンションの高い元上官に苦笑してルイスが敬礼する。
「定期連絡が滞ってしまい、申し訳ありませんでした、中佐。このところ出撃が多く…」
『そんな話はいいから、あなたのことを聞かせて。最近はどう?』
 柔らかく訊いてくるエルミナに、硬い表情のままルイスが答える。
「はいッ! 先日の出撃ではCBの…」
『違う違う。そうじゃなくって、ルイス自身の話よ』
「え…? えっと…、新型の機体にようやく乗れるようになりました。以前中佐に教えていただいたことが役に立って…」
 たちまち画面の中のエルミナが困ったような顔を浮かべる。
『あー…まぁ、それはそれで喜ばしいことなんだけど。そうだ、ルイス。今度近くに新しいカフェが出来たんだけど、休暇が取れたら一緒にどう? 基地から車で行ける距離なのよ』
 パイロットとしてこの人からいろいろ教わるうちに、随分仲良くなった。普段のちょっとしたことや、ルイスの話はどんなことでも丁寧に聞いてくれて。家族も恋人も失ってしまった今のルイスにとって、そんな風に暖かく接してくれる人間は他にはいなかった。だからだろうか。ルイスの中で、これ以上深入りしすぎないようにしようとするブレーキのようなものがかかっていた。
「…せっかくですが、そういうことには興味が……」
 その声を遮るようにエルミナが声を低くしていってくる。
『この前聞きたがってたMSのモーションパターンの組み方…教えてあげてもいいわよん?』
「行きます」
 真顔で即答したルイスに、エルミナが苦笑する。
「私も…あなたに話しておかなきゃいけないことがあってね」
『なんですか?』
 口元だけで笑って、エルミナは通信機の中のルイスに言った。
「その時になったら話すわ。とても…大事な話だから」
 そう。これも…けじめの一つだ。
 五年前に自分がしたことへの。





 綺麗に片付いた部屋から出て行こうとする男の背中に呼びかける。
「行くの?」
「ああ。君への助太刀もここまでだ。…今度は、己の戦いを果たす」
 アロウズはもうエルミナが最低限の仕事をするだけでなんとか一通り軍として機能するまでに復活していた。
 役目を終えたとばかりに基地を去ろうとするグラハムに言ってやる。
「ありがとう…。あなたがいてくれて…良かった」
 仮面の下でほんのわずかに笑って、男は無言のまま彼女のもとを去った。





 そしてCBによる二度目のメメントモリ攻略作戦が決行された。
 エルミナの情報とスメラギの戦術プランによって行われた電撃作戦は、一度目のメメントモリ攻略作戦よりもはるかにスムーズに成功し、CB側の損害は一切発生せずに終了した。
「お疲れ様、ライル」
 帰還したトレミーで、待っていてくれたアニューと話す。
「さんきゅ、アニュー。今日も綺麗だよ」
 冗談のようにサラッと言ってやると、アニューが楽しそうに笑いながら返してくる。
「それじゃ、今日もいい男のライルにあとで美味しい夕飯作ってあげる」
 嬉しそうに喉を鳴らして男が笑った。
「最高だ」
 思わず抱きしめようとしたその瞬間、隣のアリオスから怒鳴り声が聞こえてくる。
「何度言えばわかるッ!! 私はマリーではないッ!!」
 アリオスの上から必死に呼びかけるアレルヤの声が響いた。
「わかってる、ソーマッ!! でも僕は君に戦って欲しくは…ッ」
 ふいっとそっぽ向いて、廊下に消えていくソーマ。ちょうどすれ違ったニールと軽く接触しても気にもせずに彼女はそのまま行ってしまった。
「………マリー…」
 淋しく呟く男に、ニールの苦笑が漏れる。
 なかなか、うまくいかないようで。
「大佐に…彼女を二度と戦わせないと誓ったのに…僕は……」
 ニールが上の通路から何か言おうとした瞬間だった。下の通路にいたライルが、静かに言った。
「自分の考えだけを押し付けんなよ」
「…ライル……」
「大切に思ってるなら、理解してやれ。戦いたいという、彼女の気持ちを」
 ほんの少し口元だけで微笑んで、ニールはそっとその場を無言で立ち去った。





『初めて会った時…。この人は戦いに巻き込んじゃダメな人だって、そう思ったんだけど、ね』
 柔らかい声で話すいつもの女性が目の前で笑っていた。
 思い切って話しかけてみる。
『いや、そうでもないさ。エルミナ。俺は…お前が思ってるほど綺麗な人間じゃない』
 触れることの出来ない女性が悲しそうに笑う。
『…仇討ち、ね』
 彼女は知らない。四年前に彼女がいなくなった後、ニールが何をしたか。
 世界と向き合うことも前に進むこともせず。
 家族の仇を討つことを優先した。
『エルミナ…。それでも俺は……』
 君の傍にいたいといったら、許してくれるだろうか。
 あれから…変わろうとして必死に足掻いてはみたが。果たして今の自分を見て、彼女はどう思うだろうか。
『いっそ…このまま二人でどこかへ行けたらいいのに…ね』
 連れて行ってくれれば良かったのに。
 ああ、でもそれができなくてもせめて。
 君の声が聞きたい。顔が…見たい。
『わかってるさ…。お前はそんなことできるような奴じゃない』
『もし私が自分を変えて、自分に納得できたら……。そうしたら、その後であなたが望むように何でもするから。だから…その時まで』
 ニールはしっかりと頷いた。
『ああ…。俺も、変わる』
 口にすると、彼女はいつもの優しい笑顔で笑っていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ