dream〜2nd season〜

□第十三話-ブレイクピラー-
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 トレミーの医務室で、シヴァが苦い顔で訊いた。
「…それで、ロックオンの容体は?」
「全治一ヶ月。トランザム状態で旋回運動を一度もしなかったのがせめてもの救いだったな。だいぶ内臓がやられてたけど、命の危険はないってさ」
 淡々と語るライルに、低い声が返ってくる。
「…だから使うなって…ったく…」
 ライルが軽く笑う。
「無理無理。言って聞くタイプじゃないって」
 寝ている刹那の手当てをしながらアニューが重い口調で言った。
「ええ。…だから、トランザムを使えないようにシステムにロックをかけたんです。シヴァさんが」
「何だって…?」
 訊きかえしたライルに、アニューが続ける。
「ラグランジュ3でバハムートにサポートシステムを組み込んだときに、トランザム機能の使用にトレミーからの許可が必要になるようチェック機能を追加したいってシヴァさんが提案して、スメラギさんやイアンさんはすぐに賛成して、私もニールさんの身体にかかる負担を考えたらそれが一番だと思ったから…システムの追加に賛成しました」
 シヴァがアニューの言葉を引き継いだ。
「…なのに、奴は自力でバハムートのトランザムを使った。さっき、念のため戻ってきたバハムートのシステムをチェックしたが、何の問題もなかった。一体どうやって使いやがった…? こんな事ありえねぇだろ」
 ライルが軽く言い放つ。
「トランザム発動時のコックピットの音声記録とシステムの操作ログを確認すりゃわかるんじゃねぇか?」
 アニューが、そっと息をついて教えてくれた。
「それが……。とんでもない記録が残っていて…」
 話を聞いて、唖然とした顔でライルが言った。
「叫んだって…それだけかよ?」
 しかも、機体に向かって。
「ああ。機体の情報は全部確認したが、発動直前にロックオンがとった行動はそれだけだった」
 シヴァの台詞に、いつの間にか起きていた刹那が答えた。

「ガンダムが、ロックオンに応えた」

 思わずシヴァが叫ぶ。
「生き物じゃねぇんだぞッ?! 精神論でどうにかなる問題じゃねぇ」
「それでも、あのガンダムはライトを助けようとした。ロックオンと共に…」
 そこまで話したところでアニューに制止されて大人しくカプセルに入った刹那を見ながら、シヴァが小さく呟いた。
「……エルの子…か」





 もう一度、機体のデータをすべて確認して何も見つからないことを確認してから、機体の整備に取り掛かる。
 シヴァが一人で作業を続けていると、いつの間にか機体の前に、見知った女性が立っていた。
「原因はわかりそう?」
「ミス・スメラギ。俺はオカルトは信じねぇが、今回ばかりは解明できるか怪しいな。大体、システムのログはラグランジュ3で急遽追加した上っ面部分しか残らねぇ。それでなくてもトランザムシステム自体イオリアの爺さんが太陽炉のブラックボックス部分にあらかじめ組み込んでいたとっておきの秘蔵システムだ。一通りの解析が済んでいるとはいえ、どんな隠し機能があったっておかしく………」
 手元から目を離さずに話すシヴァに、機体の前に立ったままスメラギは訊いた。
「どうしたの?」
「いや…。待てよ。俺が制限をかけたのはシステムそのものじゃなく、起動コマンドに対してだ」
「ええ。ロックオンが自力で起動できなくしたのよね?」
 一瞬考え込むような表情を見せた後、男はつぶやいた。
「………そう…か。……エルの仕業か…」
 スメラギが眉をしかめる。
「ライトの仕業って…だって彼女は…」
 もうCBにはいないはずだ。シヴァが真顔で続けた。
「仕込んでたんだよ。四年前に」
「まさか……そんなこと…。四年前にはバハムートはまだ設計段階で…ライトは、バハムートには一切触っていないはずよ。確かに基本設計は彼女だけど、設計時に何か仕込まれていたら実装段階でイアンを始め、技術関係者が気づかないはずがないわ。あなただって…」
「機体じゃねぇ。太陽炉の方だ。こいつの太陽炉は元々エルがブリューナクで使ってたんだ。なら…可能だ」
 声紋認証によるキーワード入力。エルミナならば…仕込める。
 いうなれば。彼女は記憶を残していた。
 ガンダムの心臓部ともいうべき太陽炉に。
 エルミナから受け継いだ心臓がバハムートに搭載されているとすれば。
 シヴァが、苦笑しながら呟いた。

「なるほど。確かにこいつは…バハムートはロックオンの言うように、エルミナの子だったって事だ」





「……ああ、そうだ。どんな情報でもいい。………さんきゅ。悪いな、個人的な事頼んじまって………ははは、オーライ! 今度奢ってやるよ」
 そこまで話した瞬間、背後に気配を感じてライルは慌てて通信機を切った。
「ごめん、話し声が聞こえたから…」
 アレルヤだった。いつものように軽く笑ってライルが返す。
「ああ、ちょっとな。どうした? 浮かねぇ顔だな。ひょっとして…彼女の事か?」
 ブレイクピラーの一件でマリー…もとい、ソーマ・ピーリスの恩人であったセルゲイ・スミルノフが戦死。そのショックで、トレミーに戻ってきてから、マリーはずっと部屋に引きこもっていた。
 アレルヤが重い顔で言った。
「…どうやら、ソーマ・ピーリスの人格が戻ったみたいだ。少なくとも今は僕の言葉を聞くつもりは…なさそうだね」
「そいつは………」
 なんと言ってやればいいのか。正直、ライルの人生経験上、本物の二重人格の女と付き合ったことはないし、付き合っていた友人もいない。惚れた女の別人格にどう接してやればいいかなど見当もつかない。
「…今はそっとしておいてやれ。気持ちの整理をつけるのに、時間が必要だ…」
「そうだね……」
 重い声で同意したアレルヤが空気を換えるように少し笑って話を変えてきた。
「…ライトは、どうやらもう大丈夫みたいだね」
「ん? ああ。どう…だろうな」
 曖昧な相槌にアレルヤが小首をかしげる。
「? 僕はクーデターの時のあの話し方を聞く限り、以前のライトに戻ったように感じたけれど…。何かあったのかい?」
 ライルは小さく苦笑した。
「いや……。なんもねぇよ」
 本当に…何もなければいいのだが。






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