dream〜2nd season〜

□第十三話-ブレイクピラー-
2ページ/3ページ



 エルミナが指示を出したMS隊を皮きりに、戦っていたアロウズや正規軍は次々と破片の駆除に加わり始めた。
 同時に、彼らと戦っていたカタロンも、ガンダムも。
 すべてが一つにまとまっていく中、エルミナ自身も一心不乱に落ちてくる破片を砕き続けた。
 崩壊しきった自身の心の欠片をさらに粉々にしていくかのように。





「………酷い…」
 血に染まった大地を見下ろして、エルミナがコックピットの中で喉の奥から声を漏らす。
 すべてが終わって夕焼けに染まる地面に、突き刺さってる大量の破片と、そして無数の遺体が転がっていた。
 何故…いつもこうなるのか。
 何故、いつも屍の上を飛び続けるのか。
 自分がかつて飛びたかった空は…。
 撤収して行く部隊の指揮もそこそこに、少し一人になりたいからと隊を離れる。
「ニール…」
 離れたところで、身動きが取れなくなっているバハムートを発見した。
 通信機からの反応はなかった。生体反応はあるから、中で気絶している可能性が高い。
 軽く苦笑してバハムートの肩を自機で抱え上げて、できるだけ揺らさないように低速度で移動し始める。
 …そう…か。この機体は。
 エルミナの脳裏に懐かしい記憶が一つ戻ってくる。昔、自分が設計していた覚えがあった。
 思わず胸が苦しくなって苦笑が漏れる。
「バハムートガンダム…。この子に乗るなんて…何を考えているの? ニール」
 バハムートをあれほど自在に使いこなすまでに、高速機に慣れていない彼がどれほど苦しい思いをしたかは察しが付く。
 その上、先程のトランザムモード。戦場の真ん中で気絶するまで戦ってどうする。それがどれほど危険な行為かわからないような男ではないだろうに。
 それはつまり…自分の命を…投げる覚悟だったのか。
「相変わらず、無茶苦茶よね。ほんっと…」
 だが、今の自分はその無茶苦茶に救われた命だ。
 中の彼は意識不明だったが、あえて通信機のスイッチを入れた。
「いっそ…このまま二人でどこかへ行けたらいいのに…ね」
 何もかも忘れて。
 世界一、我儘で無責任なまでに利己的に…自己中心的に…どこまでも最低になって、ただひたすら彼だけを愛していられたら………。
 あまりに酷い自分の考えに呆れを通り越して苦笑が漏れる。
 つい先ほど自分の力が及ばなかったばかりに悲惨な死に方をした人間たちの屍の山を眺めていたにも関わらず、その直後にこんなことを考えられるなんて。
 どうかしている。
 ああ、それでも!
 今日は痛いほど思い知らされた。
 この男の中にはまだ自分が棲んでいる。
 そして自分はまだこの男を愛している。
 この期に及んで。
『そいつはお前自身の問題だ。自分で背負って乗り越えろ。でないと………ロックオンまで不幸にすることになるぜ。わかったらあとは自分でケリつけろよ。…エルならできる』
 昔、兄から聞いた言葉が耳に痛いほど突き刺さる。
 わかってる、兄さん。
 ニールを不幸にはしたくない。
 胸中呟いて苦笑を収め、エルミナは真顔で続けた。
「ニール。せっかく来てくれたのに…ごめん。私に…もう少し時間を…頂戴。今はまだ…帰れない……」
 すべてを背負って乗り越えるだけの時間を。自分の心に決着をつけられる時間が欲しかった。
 コックピットに西日が突き刺さる中、エルミナは続けた。
「アロウズでやるべきことも残ってるしね。もし私が自分を変えて、自分に納得できたら……。そうしたら、その後であなたが望むように何でもするから。だから…その時まで」

 コックピットの中の男の口元が、微かに笑った。





 夕日の逆光の中にいる、見覚えのあるガンダムにエルミナが通信を入れた。
『その機体…もしかして、乗ってるのは元会社員君だったりする?』
 ニールを捜索していて突然現れた満面笑顔の女にライルが絶句する。
「アンタは……」
『悪いけど、この人を連れて帰ってもらっていいかしら?』
 想像通りトランザムを使用したことで動けなくなっていたらしいニールを機体ごとエルミナから引き取って、ライルは言った。
「アンタは、一緒に来ないのか?」
 画面の中の女は苦笑して言った。
『…その人が起きたら、伝えてくれる? ありがとうって』
「…………」
 沈む夕日が、綺麗な笑顔を照らし出した。
『そんなになるまで無茶して…助けてくれたの…。本当に嬉しかったって』
 その淋しそうな笑顔に何か嫌な予感を覚えて、ライルは慎重に訊いた。
「……ひょっとして…トレミーに戻れねぇのか? 何か事情が…」
 しかし、遮るようにニコニコ笑いながら女は言った。
『それじゃ、お互い生きてたらまた会いましょう。またね………ライル』
「な…ッ、おい……ッ!!!」
 言い残してすごいスピードで去っていく機体を呆然として見送る。
 なるほど。言いたいことだけ言ってさっさと去っていく癖はシヴァそっくりだ。
「…生きてたら、か」
 彼女の事をライルは殆ど知らない。
 だが、カタロンのようないつ死んでもおかしくない組織に身を置いてきた自分の直感が、知らないなりに彼女から嫌な予感を感じ取っていた。
 あの眼は…覚悟を決めた人間の眼だ。
 あんな眼をして出て行った仲間が戻ってきたことは一度もない。
「まずいな…」
 日が沈み切って薄暗くなりかけているコックピットの中で、ライルが苦い顔でケルディムの腕の中のバハムートを眺めていた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ