dream〜2nd season〜

□第十二話-クーデター-
2ページ/3ページ



 誰も、言葉が出なかった。
 クルーが揃って絶句する中、喉の奥からくつくつと響く笑い声が漏れ聞こえてきた。
「……ははッ、こいつは武力介入だ。…やってくれるじゃねぇか、エル」
 声高に笑うシヴァに、ニールが好戦的な笑顔で朗々と言った。
「ああ。確かにクーデター派のしていることは紛争だ。なら、武力介入の必要がある。そうだろ?」
 ライルが呆れ果てた口調で呟いた。
「なんっつう無茶苦茶な人だ。カタロンとクーデター派の全軍を敵に回す気かよ…」
「でも、それがソレスタルビーイングだ」
 力強く言い放ったアレルヤに、スメラギが頷いた。
「ええ。ライトの言っていた通り、こんなやり方は戦いを引き起こすだけでしかないわ」
「それじゃ……アロウズに加勢すんのかッ?!」
 素っ頓狂な声を上げるラッセに、スメラギはきっぱりと言い切った。
「クーデターへの武力介入はライトに任せるわ。私たちは私たちのすべきことをしましょう。この騒ぎを聞いて、刹那もタワーに向かっているかもしれない。それに、イノベイターの目的も気になるし…。あの様子だとライトはそこまでは知らない可能性が高い。何かあった時は……助けないとね。今度こそ」
 スメラギの言葉に頷いて、アニューが舵をとる。
 ティエリアが口元だけで笑いながら小さく呟いた。
「…イノベイターの支配を超えたな……ライト」





『タワーより返答、ありません』
 ルイスの声に、エルミナが呟いた。
「…りょーかい。交渉決裂、ね。ま、わかってたけど。それじゃ、作戦通りお願いするわね、アンドレイ」
『了解です、大尉ッ!』
 本当は中に市民がいるとわかっている状態であまり無茶はしたくなかったのだが。これ以上ぐずぐずしていると、アロウズの他の隊が到着してタワーにオートマトンを放り込みかねない。
 それだけは避けたかった。





 タワーの中で、セルゲイが言った。
「勝負あったな、ハーキュリー」
 先程の会話は全タワーの市民、クーデター派、カタロン、そしてアロウズの全兵士に聞かれていた。そしておそらくはやがて全世界に流れる。
 小娘相手と侮って一般回線で対話を行ったことがあだとなった。
「セルゲイ…ッ」
「あの娘の言う事は正論だ。…お前の負けだ」
「我々はまだ負けてはおらんッ」
 ハーキュリーが叫んだ瞬間だった。
 一瞬にして視界が真っ暗になり、フロア全体に広がっていた機械の音が消え、耳が痛くなりそうな静寂が訪れる。
 まるで…ブレーカーが落ちたかのように。





『シヴァ』
「なんだ?」
 コックピットで待機している機嫌の良さそうなシヴァに、ライルが真剣な顔で訊いた。
『お前の妹は…たったあれだけの数のMS隊でクーデター派とカタロンを相手に本気で武力介入する気だと思うか?』
 男は笑いながら答えた。
「するんじゃねぇか? さっき本人が自分でそう言ってただろ?」
『そりゃいくらなんでも無茶が過ぎるだろ…? クーデター派の軍が一瞬で…』

「無理だな」

 何故? と、ライルが聞く前にシヴァが続けた。
「あいつは昔からこの手の根回しに関しては俺より頭が回る。…凡人が勝てる相手じゃねぇ」





 通信機から、アロウズ兵の声が聞こえる。
『タワーの全システム、掌握しましたッ!』
 戦う必要のなくなったMSの中で、悠々と指揮を執る女が一人。
「予定通り、各ブロックの隔壁の開閉をこちらで操作。民間人の救助を最優先に」
『了解です』
 突入していくMS隊を見下ろしながら、アンドレイがエルミナに訊いた。
「ウイルスですか?」
『あら、アンドレイにはハッキングの事、伝えてあったわよね?』
「え、ええ…ハッキングの事はお聞きしておりましたが…。一体どうやって仕込んでおいたウイルスを起動したんですか? 占拠された状態ではタワー内のコンピューターに侵入する方法が…」
『んふふ。手品のタネを訊くのは無粋よ』
「え………? あの…教えてはくださらないのですか? 大尉」
 すると、意味深な低い声が飛んだ。
『女の秘密を暴こうとすると早死にするわよ? アンドレイ』
「え、ええええええ……ッ?!」
 見かねてルイスが淡々と言った。
『事前に決めたキーワードを大尉の声でタワーの通信機に通すと、ウイルスが起動する仕組みにしておいただけです。声紋認証ですから、誤って別の人が通信機でキーワードを話してしまっても大丈夫です』
 つまり、最初に通信回線を開いてエルミナからの交渉を受けた時点で彼らは敗北していたのだ。
『あららら、ルイス〜…。それバラしちゃう?』
 呆れ果てた声でアンドレイが呟いた。
「大尉、まだ…作戦中です」





 トランザム加速でタワーに向かっているトレミーの中でフェルトが叫ぶ。
「く…クーデター…鎮圧されましたッ。タワーの市民の救助作業が開始されたようです」
 ラッセが叫び声が続いた。
「早ぇよッ!! まだあれから10分も経ってねぇッ」
 最小限の兵力での無血開城。しかも、武力を行使せずに…。四年経った今でもやっぱりフェルトの知るライトニングは変わらない。
 あの人は相変わらず…すごい。
 スメラギが苦笑して呟いた。
「…ほんっと、相変わらず困ったもんだわ…。ライトのクラッカーっぷりには…」
 少し笑って、フェルトがモニターから目を離さずに返す。
「昔、トレミーも一度やられましたよね」
「そ、そうなんですか?」
 目を丸くしているアニューに、横でラッセが笑いながら昔話を聞かせはじめる。
 そう。あれは超人機関への攻撃ミッションの前だった。トレミーの管制機能を一時的にウイルスで操作してエルミナが小型艇で出て行ってしまったのだ。
「その時はすぐに帰ってきたけど…。今回はあとどのくらいで帰ってくるのかしらね。…あの家出娘は」
 あくまで笑っているスメラギに、ラッセが同じような顔で笑いながら返す。
「帰ってきたらとりあえず、みんなで説教だな」
「それはロックオンの仕事よ。あの子、あの頃からロックオンに怒られるのが実は一番堪えてたから」
 楽しそうなラッセの笑い声が響いた。
「ああ。そうだった」
 笑顔のままスメラギが何か言いかけた瞬間だった。
 フェルトの不穏な声が飛んだ。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ