dream〜2nd season〜

□第十二話-クーデター-
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『我々は連邦市民の利益と安全を守る軍人だ』



『ゆえに、誤った政治、間違った軍隊を正すこともまた、我々軍人の使命なのである』





 アロウズによるCBへの全面攻撃が開始された。
 圧倒的な戦力をもってCBを叩き潰しに来たカティの作戦に、刹那のダブルオーを欠いたトレミーが苦戦するのは必至だった。
「………ッ?! 敵の動きが…」
 ガンダム五機で必死に凌いでいたところに突然訪れた敵の動きの停滞化。
 原因は軌道エレベーターだった。
「クーデター……?」
「アフリカの軌道エレベーターが正規軍のクーデター派に占拠されたらしい」
 既にカタロン部隊からの映像がトレミーにも送られてきていた。
「これは…アロウズ?」
 画面の中には占拠されてから速攻でタワー周辺を包囲し尽くしたアロウズのMS隊の姿があった。
「どういうことなの…? こっちにこれほどの戦力を裂いておきながら、タワーを包囲できるほどの戦力をまだ残していたなんて…一体…何のために…」
 呆然として呟くスメラギに、アレルヤが返した。
「緊急時のために…ということですか?」
「いや、それにしてはあまりにも手際が良すぎる。事前にクーデターの情報を得ていたにしても…これほどの動きは…」
 瞬き一つせずに画面を見つめていたティエリアの背後で、フェルトが叫んだ。
「現地の通信音声、来ます」



『………そう、あなた方は連邦政府の情報統制によって偽りの平和を与えられ、知らぬうちに独裁と言う社会構造に取り込まれているのだ。この事実を世に知らしめるまでの間、あなた方の命を預からせてもらう』



「これは…」
 フェルトが画面を操作する。
「タワーの中で、一般市民が人質になっているようです。推定人数…四万五千人…ッ」
 ニールが苦い顔で呟いた。
「一般人まで巻き添えかよ…」
「それが狙いだろうな。一般人にアロウズの悪行を知らしめるってとこだろうよ」
 淡々と言うシヴァに、ラッセが言った。
「当然、加勢するだろ?」
 スメラギが渋い顔で言った。
「イノベイターはヴェーダを掌握している…。もし現地に派遣されているアロウズがイノベイター達の仕業なら、とっくに強硬策がとられていてもおかしくはないのに…。フェルト、アロウズのMS隊が何をしているか、情報は入ってる?」
 タワーの前で包囲したまま延々と何をしているのか。それが気がかりだった。
「それが……タワーの中のクーデター派と一般回線で交渉し続けているようですッ!」
「交渉…ッ?! しかも…一般回線で……ッ?!!」
 どこの馬鹿だそれは?!
 全員が目を丸くする中、フェルトが続けた。
「音声…拾えるみたいですが…どうします?」
 スメラギが呆れた口調で言った。
「……聞かせてもらえる?」
 トレミーのブリッジに、聞き覚えのある声が流れた。


『…何度でもいうけど、軍隊はただの道具よ。市民を守るためのね。間違った軍隊を正すのは政治の仕事であり、誤った政治を正すのは市民の仕事であって、どれも軍人の仕事ではない。そもそも軍人が何かを『正す』なんて事は不可能よ。軍人にできることは、せいぜい戦って市民を守ることくらい……』


『独裁者の手先である貴様がそれを言うか? 誤った政治を正す為に、市民には目覚めてもらう必要がある。たとえ痛みを伴おうとも』


『独裁者って言ったかしら? 独裁ってのはね、自分の理想を実現するのに正しい手段ではなく、暴力を行使し、市民の自由意思を強制的に統制しようとすることよ。今、タワーの中であなたがしていることがまさしくそれじゃない?』


『詭弁だな。腐敗した政治は誰かが正さなければならない。軍隊とは、国民と国益を守る為、対外勢力の抑止力になるものだ。だが、誤った政治力の元で軍は正しく機能はしない。我々は、政治を正し、正しき軍を取り戻す』


『…たかがそんな目的のために数万の人間の命をよく道具のように扱えるわね…。そうやって自分の正しさを信じて疑わない人間が理想のために平気で命を弄ぶからいつまで経っても戦争もテロもなくならないのよ…ッ!!』


『貴官の言いたいことはよくわかる。だが、貴官のような良識ある軍人ならばアロウズの蛮行を世に知らしめる必要があることも理解できるだろう。貴官のしていることは、結果的にアロウズの悪行を幇助する行為だ』


『もちろんあなたの言うように自分たちだけが平和でいられればそれでいいという考えの政治に無関心な市民に真実を伝える必要があるのはわかる。ここでこうして私とあなたが話していることは…無駄にはならない。でもね、本当の意味での悪行ってのは、市民が自分の意志で考え、政治の誤りを指摘する自由を奪うことにある。あなたのしようとしていることが市民に真実を伝えることなら、どうして銃が必要なの? 市民の命を危険にさらし、銃で脅さなければならない時点で、あなたは自分の考えを暴力で他人に押し付けている』


『ならばMSに乗って我々を包囲する貴官も同じではないか? 自分の理想を押し付けるために我々を暴力で攻撃しようとしているではないか』


『…悪いけど、その手は通用しないわ。直属の上司に命令書をもらってるの。『万が一』クーデターが起きた場合はこれを直ちに鎮圧せよ……ってね。だからこの出撃は軍規に従った出撃であり、私の独断ではない』


『ふ…若いのに随分と優秀な軍人がいたものだ。惜しいな…それだけの見識があって何故わからん? 政治も軍隊も、良識ある市民が存在してこそ、機能するのだ。彼等を目覚めさせる為なら、私は喜んで捨石になる』


『市民に良識があるかないかを決めるのはあなたじゃない。あなたのしていることは、自分の理想のために一般市民を危険に晒すテロ行為と同じよ。これが、最終通告。今すぐ武装を解除して投降しなさい。それができない場合…』



 武力を行使して、タワーに介入しクーデター派を鎮圧する。
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