dream〜2nd season〜

□第九話-彼を記憶せよ-
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「ライトか…ッ!!」
 飛んできたビームをかわしながら刹那が叫ぶ。
 目の前の機体から聞き覚えのある声が飛んできた。
『は〜い。呼ばれて飛び出てなんとやらッ、てね。でも悪いけど、お姉さんはそんな名前じゃないわよん?』
「……ッ!!!」
『それとも…別の人を探していたのかしら?』
 あっという間に懐まで突っ込んできた相手の武器を、近接武器を抜いて受け止めながら、刹那は叫んだ。
「ライトはお前なのか? なら、お前は何のために戦っている…ッ?!」
『…何の為?』
「四年前、お前は俺に言ったッ! 戦いと争いは違う」
『………』
「傷つけ、何かを奪い合うためにただ争うのではなく…」
『………』
「守り、自分自身の意志を貫くために…戦えッ!!!」
『戦う理由は…』
「戦う理由は…常に自分で考えろッ!!!!」
「……ッ!!」
 コックピットの中で、エルミナが絶句する。
 その言葉には確かに覚えがあった。
 なのに…。わからない。
 今の自分が争っているのか戦っているのかさえ。
『あなた……誰…?』
「刹那・F・セイエイ。CBの…ガンダムマイスターだ」
『……刹那…? …ッ、刹那……』
 歪んだ顔で譫言のように名前を呼ぶ目の前の女性に、言わなければならないことがあった。
 伝えたいことがあった。
 死に目にすら会えなくて、ずっと仕舞ったままになっていた想いを。
「ライトッ!! 俺はアンタに……」
 叫んでいる刹那にガデッサが突っ込む。
『はいはい、人違いだよッ!!』
『イノベイター…ッ』
『ご存じじゃないさ…ッ!!』
 割り込んで戦闘に入ったヒリングに通信を入れる。
「ちょっと…ッ、大丈夫なの…? その子、強いわよ」
『人間相手に心配されてもねぇ…おっと、あなたも人間だっけ?』
「…………」
 通信機越しに、笑い声が響く。
『敵母艦突っ込んでくるよッ? やっちゃって』
「…わかってるわよ……」
 そう。そうだ。任務を…完遂しないと。
 誰の意思でもない、プログラムされた思考が手足を突き動かす。
 一体自分は…………。
 その先が…考えられない。さっきの刹那と名乗った彼は…。
 ………。
 何も思い出せなくなっていた。
「……目標視認まで、あと…」
 口調が重い。照準を合わせる腕も…重い。でもやらないと…。やらないと…。
『エルミナッ!!』
「……ッ!?」
 トレミーから出撃してきたバハムートが撃ってくる。ものの見事に反応が遅れて直撃し、機体に衝撃が走った。
「…直撃…? エルミナ?」
 思わずコックピットでニールが呟いた。
 この相手を狙い撃って初めてまともに命中したことを喜ぶよりも、相手の動きの悪さに驚く。
 所詮は威嚇射撃だから当たったところで問題はないのだが。
「……ッ!!」
 一瞬にして体勢を立て直して斬りかかってきたエルミナの一撃をピストルで受け止める。
『やってくれるじゃない? 私に当ててくるなんて…ッ!!』
 思わずニールが苦笑する。
「俺も…正直驚いたよッ!」
『悪いけど、遊んでる暇はないのよ』
「エルミナッ! もういい加減にしろ…ッ!!! この前、自分でも気づいただろ…ッ?! 何か変だってッ! お前の兄貴のことだってッ!!」
『この前って何の話? どこかであなたと会ったことあった? それに私…一人っ子だけど?』
「な……ッ」
 絶句した瞬間、機体を大きく弾き飛ばされた。
 トレミーの中でそのやり取りを聞いていたアレルヤが震える声で呟く。
『姉さん…まさか…また頭の中いじられて…』
 フェルトの消えるような声が通信機の回路に溶ける。
『…酷い………』
 リヴァイヴとブリングの二機を相手にしながら戦っていたシヴァの機体から硬い怒声が飛んだ。
『…ッテメェら……ッ、人の妹をなんだと思ってやがるッ!!!!』
『なんだと思ってるってさ…。決まってるだろ? 死に損ないのテロリストだよッ!! 人間として扱ってもらえるわけないだろッ!!!』
『イノベイターごときが人間を弄んでんじゃねぇぇぇぇぇッ!!!!』
『そんなに悔しい? 自分の妹が使い捨ての兵器にされてることがさぁ…ッ!!』
『使い捨ての兵器はテメェらだろうがッ!! イオリア計画の乗っ取りに利用されてるだけの人形共が…ッ!!!』
『貴様……ッ!!』
 通信機から流れてくる今まで聞いたことがないほど激昂しているシヴァの声と、狂ったような少年の声。
 ゆっくりと顔を上げて、エルミナと対峙しながら、ニールは歪んだ顔で笑った。
「…はは……も…笑うしかねぇな。ごめんな…エルミナ。この前会った時何とかしてやれりゃ…」
『あのねぇ…この前この前ってさっきから何を…』
 わけがわかっていないエルミナにニールが言った。
「…忘れたなら何度でも言ってやるさ。何十回でも、何百回でも俺はお前を助けるッ!」
『な…いきなり何の話を…』
「何度でも俺がお前を正気に戻すって言ってんだッ!!」
『とち狂ってる覚えはないけどねッ!!』
「エルミナ、お前なら考えられるだろ…ッ!! 今、自分が何をしているのか」
『あなたと戦ってるんじゃない? 撃つ気のない人とね…ッ!!』
 以前と違い、もう今のエルミナは何も受け付けなくなっていた。何も考えず、頑なに任務をこなすだけの人形。
「……ッ!! 俺は…お前を狙い撃つためにバハムートに乗ったんじゃねぇッ!!」
 本気で落としに来ているエルミナの攻撃を必死にかわす。サポートシステムをフル稼働してなんとかかわせていたが…。際どい瞬間が断続的に続いていた。当たれば…落ちる。
『だったら何しに来たのッ!! 戦う気がないなら帰りなさいッ!!』
「エルミナ…話を聞いてくれッ!!」
『だから、今はあなたの話を聞いてる場合じゃないのッ!!』
 瞬間、回り込んだエルミナの一撃がバハムートの腕を凪ぐ。
「……ッ!!!」
 体勢を崩したニールをそれ以上構うことはせず、エルミナは機械的な声で呟いた。
『私は自分の任務を…』
 任務…。トレミーの破壊命令。
 それを思い出した瞬間、エルミナの頭に重い霧が伸し掛かる。
 その正体が何なのかすら、わからず。
 それでも突っ込んでくるトレミーに照準を合わせる。

 指が、震えていた。
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