dream〜2nd season〜

□第九話-彼を記憶せよ-
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 王留美からの情報により、本格的にメメントモリの攻略作戦が始まった。
 衛星兵器破壊の為、トランザムを使用してトレミーを最大加速。ギリギリまで接近し、そして。
「ケルディムのスナイパーライフルで狙撃する」
 全員の視線がライルに集まっていた。
 スメラギが続ける。
「問題は、そこに至るまで…ね。ガンダム一機をトランザムに使用するのと、セラヴィーは外壁を破壊するためにトレミーのハッチでケルディムと待機」
「メメントモリの防衛兵器からの攻撃は?」
「…ケルディムのシールドビットに頼るしかないわ」
 ティエリアがスメラギに言った。
「それより厄介なのは、敵のMSだ。イノベイター達は確実に妨害に出てくる」
 淡々と、刹那が言った。
「それに…ライトも出てくる。必ず」
 静まり返ってしまったブリッジで、ニールが言った。
「なら、俺は出撃して足止め係だな」
「それなら僕も…ッ」
 言いかけたアレルヤを遮るようにシヴァが言った。
「お前はトランザム係だ。機体の修理が間に合ってねぇ。…俺も出る。イノベイターが多いと厄介だが…」
 刹那が遮るように強く言い放った。
「何機出てこようが、俺とダブルオーが破壊する。だから…。ロックオン」
「………」

「ライトを頼む」





 ライトを頼む…か。
 バハムートの中で待機しながら、ニールが胸中で苦笑する。
 どうやら刹那にも、この前の戦闘中に起きたダブルオーライザーの感応で声が聞こえていたらしい。エルミナが今どういう状態か、おそらくニールだけでなく彼も肌で感じたのだろう。
 アレルヤも、ギリギリまで出撃したがっていた。
『なら、早く助けてやらないとな。だろ?』
 ライルが密かに応援してくれていることも知っている。
 ティエリアが、エルミナを利用しているイノベイター達に腹を立てていることも。
 それに…。
 フェルトもスメラギも、カプセルで寝ているイアンでさえ。
 みんなトレミーで待ってる。
 だからさ。
「とっとと帰って来いってんだ」
 薄暗いコックピットの中で見る写真の中の彼女は…笑っていた。
『ロックオン』
 待機中のウロボロスからの通信だった。
「どうした?」
『………。…いや、なんでもない』
 珍しく歯切れの悪い物言いに、思わず苦笑する。
「また何かあったか? 悪いな…。お前にばっかきつい思いさせて」
 前回の戦闘で自分や刹那が聞いたあの声を、彼は今までずっと一人で聞いていたのだろうか。…今もまだ、ずっと。
『…自分でも馬鹿だと思うぜ』
「ん?」
『エルからの脳量子波を遮断して聞こえなくする方法なんざいくらでもあるのにな』
「んなことできねぇだろ、お前」
『…それで具合悪くなってぶっ倒れたり他人に喚いて当たり散らしてりゃ世話ねぇよな…ホント』
「もう気にすんな」
『…………』
 声を聞いてやらないという事が、妹を見捨てることにはならない、ということは彼自身も承知していた。
 自分自身の体調に影響を与えることを考えれば、遮断すべきだという事も。
 それでも、捨てられなかった。
『何とか言ってよ…。じゃなきゃ…私、父さんと母さんだけじゃなくて、兄さんにも捨てられ…』
 捨てたくなかった。
 四年前に聞いたエルミナの言葉は今でも胸に突き刺さっている。
 それに、どんなに辛くてもその声が聞こえている限り、裏を返せば希望はあった。

 その声が、昨日の夜を境に聞こえなくなっていた。





「調子はどう? お姫様」
 ヒリングがからかうような口調で訊く。
 エルミナが苦笑して答えた。
「人生初のお姫様呼びが女の子からとは…ね。調子はいいわよん。今回はあなたと私だけ?」
「あとからブリングとリヴァイヴも来るってさ」
「…そう」
「どうかした?」
 軽い口調で訊いてくるヒリングに、エルミナが苦笑する。
「ん…。何か…調べ物をしていた気がするんだけど…。まぁ、思い出せないってことは大したことじゃなかったのかしらね」
 くすくす笑いながらヒリングが返した。
「そうなんじゃない? 気にしない気にしない」
 苦笑しているエルミナを残して、そっと部屋を出てため息をつく。
 だから面倒だと言ったのだ。
 リボンズでさえ予測できていなかったダブルオーライザーの威力は、とっくに死んだと思っていたエルミナの本体を叩き起こした。否。正確には消えたと見せかけてくすぶっていた火が再び小さく燃え始めた。
 そもそも崩壊させた彼女に、違う人格ではなく、わざわざ元々の人格を上書きしたリボンズの意図が全く分からない。
 おまけに今回の処置に至っては応急処置とはいえ乱暴に邪魔な記憶を全て消し去っただけだ。
 といっても、そう何度も何度も弄られて耐えられるほど人間は頑丈ではないから、そろそろ本当に精神崩壊してしまうだろうけど。
 それはそれで少し興味があるというか、見てみたいような気もした。
 リボンズも案外、人間がどこまで耐えられるか調べるのが目的だったりして。
 胸中で残酷に笑うヒリングの顔は、無垢に微笑んでいた。
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