dream〜2nd season〜

□第八話-ダブルオーの声-
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「え…? 知らない?」
 意外そうにアニューがライルを見つめていた。
「直接会ったことはないな。一度戦ったことはあるけど」
「そうだったんですか…。なら、どんな人かは」
「知らないな。ああ、でも…」
「?」
「その時は俺の事、殺菌して缶詰にするとか言ってたよ」
 アニューの楽しそうな笑い声が響く。
「面白い人ですね。でも、意外でした。皆さんと話している時の様子を見ていたら、てっきりライルさんも知り合いなのかと…」
 困ったようにライルが少し苦笑する。
「ああ…。まぁ、そりゃ無関係でもないからさ。シヴァはいい奴だし、兄さんのことだって…。応援したいって思ってる」
 しばらくしてから、アニューが口元だけで笑って言った。
「あの二人、似てますね」
「ん…シヴァと兄さんが? まぁ確かに似てると言えなくも…」
 遮るように、アニューが言った。

「生まれつきお兄さんだったところとか」

 アニューにとっては。ただのちょっとした興味だったのかもしれない。
 しかし、ライルの反応は予想以上だった。
 しばらく無表情で固まった後、彼は何とかいつもの表情を作って笑った。
「……。ああ。言われてみりゃそう…かもな」





 そして、ついにアロウズによるラグランジュ3への総攻撃が始まった。
 補給を中断して、トレミーが緊急発進する。
 イアンの推薦を受けて、トレミーに操舵手としてアニューが乗ることになった。
「これでロックオンが出撃しても俺が砲撃に専念できる」
 嬉しそうに言うラッセの背後で次々フェルトとミレイナが発進指示を伝えていく。
 先に発進したウロボロスの中で、シヴァが小さく呟いた。
「……いる…。やっぱ脳量子波は遮断してきたな…」
 前回あんなやり方をしたのだから当然だ。
 脳量子波を遮断する素材は既に多数開発されている。スーツやヘルメット、さらには機体そのものに組み込むことも可能だ。
『あら残念。この前の人じゃない…か』
「…ッ!!」
 通信を入れながらいきなり撃ってきたエルミナに軽く舌打ちして応戦する。見た目は前回の新型機だったが、戦闘データに記載されていたものより動きが疾くなっていた。
「まぁ、そう言うなよ。これでも昔からお前に負けたことは一度もないぜ?」
 一気に機体の出力を上げて懐に飛び込む。慌てて武器を抜いてシヴァの一撃を受け止めながら、エルミナが叫んだ。
『…私だって…初めましてのあなたに負けた覚えなんて一度もないわよ…ッ!!!』
 何度も武器が交差して、機体の位置が入れ替わっていく。
「んな…怒んなよ…ッ!!」
 瞬間、反応が一瞬遅れて機体に衝撃が走り、エルミナが必死に距離を取った。
「…強い…ッ、一体何なの…このパイロット…ッ」
『お前、双子だってことは覚えてたんだろ? なのに俺の顔はわからないってのはどういう了見だ?』
「何の…話?」
 警戒しきった表情で、画面の中にうつるヘルメットの中の顔を必死に眺める。
『まぁ、それはいい。他に家族について覚えてることはあるか?』
「………。あったとして、どうしてあなたに話さなきゃいけないの?」
 完全に怒っている時の口調だった。そんなに先程の物言いが気に入らなかったのか。
 どうやら、兄に勝ち誇ったようなセリフを吐かれたら必ず頭に血がのぼる癖も健在のようだ。思わず苦笑してシヴァは言った。
「変わってねぇな。俺はお前がそうやって俺に突っかかってくるのは嫌いじゃなかった。エルミナ、よく考えろ。お前は何故そこにいる?」
『………ッ!!! 私の名前……なんで…それに…』
 何故…。
 今、考えていることがわかった…ッ?!
 何故今、アロウズにいるのか。それが…わからなくて、MSに乗ってここにいるという事が…何故わかった?
 そして今までの物言いと訊いてきた話の内容。何より…ヘルメット越しにでもわかるくらい自分とよく似た顔の造形。
 エルミナの頭の中で、答えが出始めていた。この人は…おそらく…。
「…兄……さん………?」
『………ッ!!』
 シヴァが何か言おうとした瞬間だった。
 突然突っ込んできた別の機体から通信が飛ぶ。
『やっぱり君が一番厄介か…ッ!!』
『…ッ、やろ…ッ!!』
「リヴァイヴッ!!」
『引き受けます…ッ、あなたは他を…ッ』
 本来なら、あれほどの腕を持つパイロットを他のパイロットに任せることなどできるはずもなかったが。リヴァイヴはワンマンアーミーだ。自分の責任は自分で持つだろう。
「了解…ッ」
 確かに他のガンダムが出てきていた。
 苦戦している自軍のパイロットから適当なガンダムを二機ほど引きはがして交戦を開始する。
「…ほんっとに…どうかしてる…」
 エルミナが苦い顔で呟きながら、目の前の二機の攻撃を綺麗にかわした。
 今の自分の記憶が役に立たないことは重々承知しているが、かといってCBの連中の言葉を真に受けるほど耄碌してもいない。
 しかし。先程のパイロットがもし…もし仮に本当に自分の兄だとしたら、一体自分の記憶はどこまで壊れているのか。いや、そもそも兄にしたって親にしたって死因すら思い出せない程度の記憶だ。
 何より…もし彼が兄を装いたかったのだとしたら、いの一番に自分でそう名乗るような気がする。
 彼が一度も名乗らなかったことが、かえって信憑性のある話に思えた。
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