dream〜2nd season〜

□第六話-過去と未来と過去と-
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 アロウズの追撃をかわし、トレミーは再び宙へ浮上した。
 スメラギの読みが…カティを上回った。
「それでも…」
 ブリッジで、誰にも見られないようにスメラギは顔を曇らせた。
 今後の事を考えれば、こちらの正体がばれたことは今回の勝利を差し引いても分が悪い。
 それにしても。ライトニングが向こうについているのならば、彼女は何故スメラギの事を話さなかったのか。もし彼女が話していれば、もっと早い段階でスメラギの傾向は全て読まれ、今回はおろか、最初のアレルヤの奪還作戦の時点で負けていた。スメラギの事だけではない。
 ライトニングはこちらの情報をもっとたくさん持っているのに、それらを敵側に渡した形跡が…ない。
 それが罠…とは考えづらかった。どう考えても利用しない理由がないのだ。
 まぁ、だからといって彼女がまだ自分たちに味方してくれているとも思えなかったが。
『Eセンサーに反応ッ!! 接近する機影がありますッ!!』
「………ッ?!」





「敵は一機だけか…?」
 しかし、でたらめな速度で迫っていた。
 整備中のガンダムもいる中、出撃指示を出そうとしていたスメラギの耳に、とんでもない台詞が聞こえてくる。
『ケルディムで出る…ッ!』
「な…ッ、ライル…?! 待ちなさいッ!!」
 ブリッジでスメラギが叫んだ瞬間、別の怒鳴り声が先程と全く同じ声で機械越しに響いた。
『俺じゃねぇッ!! 兄さんだッ!』
「ロックオン?!」
 なんて紛らわしい連中なんだ。しかし、今それを突っ込んでいる暇はない。
『ロックオンッ! いくらなんでも手当たり次第なんて…ッ』
 画面の中で叫んでいるスメラギに、軽く笑って言ってやる。
「ま、ただの勘ってやつだ。悪いが今はじっとしていられない心境なんでな。先行発進させてもらうぜ」
 もう何を言っても無駄だと諦めたのか、スメラギが低い声で告げた。
『…無茶だけは、しないでね。すぐにダブルオーも発進させるから』
「了解!」
 ケルディムで久しぶりの宙に出る。
 最近バハムートに慣れていたから、機体の感覚が懐かしい。
 デュナメスとほとんど変わらない。

『あらららら。なぁんでまた出てくるのかしらね。…ま、忠告しても無駄だとは思ったけど』

「……ッ!!」
 勘が当たったのか偶然なのか。それとも運命か。たった一機で突っ込んできた機体から通信が飛び込んできた。
『悪いけど、二度目はないわよ?』
 画面の中で苦い顔をしている女に、思わず好戦的な笑顔で言ってやる。
「…やれるもんならやってみろよ」
『……ッ?! あなた…誰…ッ?』
 動揺した瞬間を狙ってエルミナの背後を取る。正確に駆動系の部位だけを狙った一撃を余裕でかわして、エルミナがコックピットの中で叫んだ。
「動きも違う。やっぱりこの前の人じゃない…ッ!」
 この前とは比べ物にならないほど中の人間の腕が良くなっていた。これだけの動きができるなら、あまり舐めてかからない方がいい。
 それにしても。
『ちょっとちょっと…ッ、そっくりさんがもう一人いるなんて聞いてないわよッ?! これ一体どういう手品?!』
「手品ってお前…自分だって双子だろうがッ!!」
 思わず突っ込んだニールにエルミナが楽しそうに叫んだ。
『言われてみれば確かにッ!! …て、なんでそんなこと知ってんのッ!!!?』
 このノリの良さ。もう間違いなく本人である。
「他にも色々知ってっけどな。なんなら全部言ってやろうか?」
『あのねぇ…元会社員の次は元占い師? ていうか…あなた、どこかで会った……?』
 記憶喪失もここまで来ると笑えてくる。
 中途半端なエルミナの攻撃を上手くかわしながら、ニールは苦笑した。
「覚えがあるか?」
『………。ごめんなさいね。もしかすると知り合いなのかもしれないけれど、残念ながら覚えはないわ』
 その無表情な物言いに、ニールが思わずハロに叫んだ。
「ハロッ!! シールド制御頼むッ!!!」
 ハロが返事をする間もなく、機体に大きな衝撃が走って体を打ちつけたニールが息を飲む。
 シールドは間に合ったようだが。
「なまじ頑丈なのも考え物よね。もっとも今のはガードが間に合っていたみたいだけど」
 呟きながら何度も同じ場所だけを正確に狙って槍を繰る。
『待て…ッ!! おい、話を聞けってッ!!』
「いいわよん? 今すぐ投降してくれるならね」
『……ッ!!』
 なんとか全力で応戦するものの、機体の性能は相手の方が上だった。エルミナ相手でそれは分が悪すぎる。しかも、どう考えても向こうはまだ本気ではない。
「………ほんっと、投降してくれればこっちも楽なんだけど…ね」
 コックピットの中で、無表情にエルミナが呟く。これは完全に弱い者いじめだ。
 新型機の性能が試せれば別に弱い者いじめでもなんでもいいのだが。
 理由はわからないが、前回と違いどうも気が乗らない。しかもこのパイロット、明らかに戦う気がない。一体何を考えているのか。
 仕方がない。死なない程度に機体を大破させてさっさと引き上げるか。この頑丈さなら多少手荒でも大丈夫だろう。…怪我は覚悟してもらうが。
 彼女がそう思った瞬間だった。
「……ッ!! 頭が…ッ!!!!」
 突如走る激痛に目の前が白く染まる。
 いつもの頭痛とは明らかに違う痛みだった。
「…ッ、ぁ…ッ」
 なんとか機体間の距離をとって反撃に備える。しかし、この期に及んでガンダムパイロットは攻撃してくる意思がないようだった。
 頭痛はどんどん酷くなっていく。
「…ッ!!! …ぅぁあああぁぁぁああああッ!!!!」
 堪えきれない叫び声をあげて、コックピットの中で頭を抱えて悶絶する。
 トレミーから緊急発進してきた機体からケルディムに通信が飛んだ。
『大丈夫か…ッ?!』
 通信を入れてきた男にニールが目を丸くする。
「シヴァ…ッ!! お前そんな体で…ッ」
 しかも宇宙での出撃だというのにパイロットスーツを着用している暇もなかったのか、彼はウロボロスに生身で乗っていた。
『るせぇッ!! テメェ、死にてぇのかッ!!』
 目の前の敵機からはエルミナの絶叫が続いていた。
「これ…まさか…お前か?」
 乾いた声で呟いたニールと同じような表情で、ブリッジのスメラギがシヴァに通信を入れた。
『ちょっと、いきなり飛び出していったかと思えば…何やってるの…ッ?!』
「……五年前に…遮断した俺からあいつへの脳量子波を解放しただけだ」
 ブリッジからアレルヤの悲鳴のような叫び声が飛ぶ。
『この距離でそんなことをしたら、酷い干渉が起きて…ッ』
「わざと……ッ、やってんだよッ!!!」
 叫んだ男の顔に次から次へと汗が伝って落ちていく。
 思わず耳を覆いたくなるようなエルミナの叫び声がブリッジにも響いていた。
 ブリッジにいる人間全員の顔色がいつの間にかなくなっていた。確かに兄妹がMSに乗って殺し合うところなど見たくもないが、気絶するまで激痛を与えようとする図も充分それに匹敵するものがある。
『やめなさい…ッ、二人にかかる負担が大きすぎるわッ!』
 悲惨な声で叫ぶスメラギに、顔をしかめながらシヴァが必死に軽い口調で返した。
「オーケイ、ミス・スメラギ。んじゃ……無駄な血を流さずに…あいつを鹵獲できる戦術プランを今すぐ俺にくれ」
 …そしたらやめてやる。
 あまりに一方的な物言いにスメラギが何か言い返そうとした瞬間だった。
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