dream〜2nd season〜
□第五話-俯けば絶望、見上げれば希望-
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とんだ茶番だ。
パーティ会場でリボンズと踊って、彼の部屋に移動する。
ソファーには座らずに立っているティエリアに、堂々とソファーに腰かけてリボンズは言った。
「本来なら、君らは四年前に滅んでいたんだ」
四年前…。あの戦いで死んでいった者たち。
それすらも計画に入っていたというのか?
生き残った自分たちは計画の障害になっていると…。
「…ライトが君たちのもとにいるのも、計画のうちに入っていると…?」
笑い声が上がった。
「まさか。あれはただの遊びだよ」
「本人…なのか?」
「欲しければ君らに返すよ。元に戻るかどうかは保証できないけれど」
「………ッ!! 彼女に何をした…ッ?!」
「それ…」
紅茶を淹れてくれているマリーに、アレルヤが少し目を丸くする。
重い顔でマリーが言った。
「フェルトさんに聞いたわ。アロウズでこのやり方を教えてくれた人が…昔ここにいたって」
「……うん」
淹れてもらった紅茶に口をつけながら、アレルヤは苦く笑った。
「マリー、ソーマ・ピーリスの時の事を思い出すのは…辛いかい?」
「え?」
「…わからないんだ」
記憶を書きかえられ、人格を上書きされ、思考を蹂躙され…人としての尊厳を弄ばれる苦しみが。他の人間にはわからない、この痛みが。
精神操作なんて言葉、もう二度と聞きたくもなかったのに。
「アレルヤ?」
「こんな時、ライトならどうしただろう…。僕は…どうすれば…」
『やるこた一つだろ?』
違う。ハレルヤはもういない。叩けばそれが正しいわけじゃないことは知っている。
『自分で考えなさい』
姉さん…何故あなたはいつもそうなんだ…?
僕が自分で考えた結末を一番よく知っているのは…あなたでしょう…ッ?!
『撃ちたくないんだよぉぉぉおおッ!!!!』
「ライト姉さん…ッ」
気づくと、隣に座ったマリーが微笑んで片手を握ってくれていた。
「姉さん…か。覚えてるわ。あの人、たまに自分で自分の事、『お姉さん』なんて言ってたから」
軽く笑いながら話してくれるマリーに、重い顔のままアレルヤが言った。
「君にも…そうだった?」
頷いて、彼女は続けた。
エルミナ・ニエットと名乗った人と話したこと。短い付き合いだったけれど、その間にあった色々な事。
しばらくの間、言葉が…出なかった。
乾いた声でティエリアがなんとか声を出す。
「精神操作は…していない…?」
「正確には本人の意思に反することはさせていない。あれは君の知っているライトニング・ランサー本人だよ」
「嘘をつくな…ッ!! ライトは自分の意志で裏切るような人間じゃない…ッ」
「それは君らの事を覚えていればの話だよ」
「…消したのか? 記憶を」
「さぁ。本人が忘れたかったんじゃないのかい? 何もかも」
それこそあり得ない話だった。
ティエリアの知る限り、彼女はそんな人間じゃない。今の自分は、目の前の綺麗な顔のイノベイターに都合のいい話を聞かされているにすぎなかった。
「そんなことはないッ!」
ティエリアの知っている彼女は。
四年前。思い出したくないほどの記憶を、失っていた一年間の記憶を自分の手で探し出した。
「ライトは自分の過去から逃げたりはしないッ!! たとえ君が…イノベイターが何をしようとも、彼女は必ずそれを超えるッ!!」
変わる…今よりももっと、強く。
「あの人…戦ってるみたいだった」
マリーの言葉にアレルヤが目を丸くする。
「え?」
あの頃、エルミナに対して感じていた妙な違和感の正体。自分の中の脳量子波が告げていたものが、今ならわかる気がした。
「誰かを想って、苦しんでいた。そしてその人も…きっと…」
「…本当に、ダメだね。僕は」
手元の紅茶が、いつの間にか冷めていた。
「今、ロックオンがどういう状態なのか。それはこの前までソーマ・ピーリスだったマリーと戦っていた僕が一番よくわかっているはずなのに…」
ましてロックオンは自分と違って彼女の痛みを想像でしか理解できない。
あるいはそちらの方がよほど…。
マリーがハッキリと言った。
「アレルヤはダメじゃない」
揺らぐ眼でこちらを見ているアレルヤに、彼女は続けた。
「脳量子波に頼らなくてもアレルヤと話せるようになってわかったの。こんなものなくても、アレルヤと通じ合えるんだって」
「マリー………」
その笑顔が、本当に美しくて。
「あの人を想う心は通じるわ。アレルヤの想いも、他のみんなの想いも」
「………ッ!」
微笑んでいるマリーを思わず抱きしめて、口づける。身体が暖かくて…。
腕の中のマリーに感謝しながら思った。
ライトニングと話そう。
撃ちに行くわけじゃない。
同じ超兵としてではなく、人として。家族として。
想いを伝えに行こう。
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