dream〜2nd season〜

□第四話-家族-
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 アロウズの強襲によって所属構成員の半数以上を失ったカタロンのアジトは、もう基地として機能しなくなっていた。
 半壊したアジトから、別のアジトへ構成員たちを移送する間、CBはその護衛の為、トレミーを囮にする。
 出撃するトレミーのブリッジで、フェルトが小さく呟いた。
「あの人…戻ってこなかった…」
 前で操舵してくれているニールが軽く笑った。
「完全に遅刻だな。ま、戻ってきたら俺が説教しといてやるよ」
 その物言いに少し笑ってから、フェルトは首を横に振った。
「やることが多いんだと思う。シヴァって、普通の人よりもすごく色々なことに気づくから。でも、心配してない。いつも絶対に帰ってきてくれるの。遅くなっても必ず」
「そうか…」
 安心したように笑うニールに、ミレイナがつまらなさそうに言った。
「…それなのに、乙女の勘は外れたです…」
「ミレイナ? 何か言ったか?」
 ニールが訊き返すと同時だった。
 敵の強襲を知らせる警報が、複数の計器からブリッジに響き渡る。
『敵襲ッ!!』
 艦内放送を聞きながら、ガンダムで待機していたマイスター達が出撃する。
 今回はニールがブリッジで狙撃してくれるから四機での出撃だ。
「ハロ。今日は本気モードで行くぜ」
 可愛い機械音声が、ライルに応える。
「リョウカイ! リョウカイ!」





 ウロボロスに乗っているシヴァがまだ帰還しておらず、かつスメラギが倒れて動けないにも関わらず、戦況はなんとか五分に持ち込めていた。
 バハムートで出るよりも、ブリッジで砲撃に集中しようとしたニールの判断が正しかったようだ。
 この分なら…。ライルがそう考えていた時だった。ブリッジからフェルトの声が響く。
『高速で接近する機影あり…ッ。気を付けてッ』
 しかし、気を付ける間もなくケルディムに迫ってきた機体から、女性の声で通信音声が入ってくる。

『はいはーいッ、おいたするのは…そこまでよん』

「な……ッ!?」
 射撃に集中していたため、とっさにハロがシールド制御をしてくれたものの、とんでもない速度で瞬槍の一撃を受けて機体に衝撃が走る。
『あらら、なかなか頑丈じゃない?』
 ノリのいい物言いについ通信を返してしまうライル。
「あっぶねぇな、おいッ!」
 画像込で通信を入れてきた女性パイロットは戦闘中だというのに、笑っていた。
『こらこら、おしゃべりしてると死んじゃうわよん?』
 突然目の前から消えたかと思うと、機体の背後から衝撃が走る。
「………ッ!!! …のやろ…ッ!」
 なんとか相手を視認しようとするが…疾すぎて捉えられない。
『この動き…もしかしてあなた、元民間人?』
「…ッ、元は善良な会社員だよッ! それがどうしたッ!!!」
 相手は明らかに手加減していた。いつでも落とせるのに、遊んでいるかのような中途半端な攻撃。
『なら、悪いことは言わないから会社員に戻りなさいよ。それなら、今回だけは見逃してあげるわ』
「ありがた迷惑だッ!! 舐めやがって…ッ」
 なんとか必死に距離を取ろうとするが、懐に飛び込まれたまま、相手を引きはがせない。
 このパイロット…とんでもなく強い。
 というより、上手い。機体を見て狙撃タイプであることを見抜いて、絶対に距離を取らせないように動いている。
『舐めてるわけじゃないわ。戦場は民間人が来ていい場所じゃないって言ってるだけよ? それでもまだやめないなら…』
 余裕で話している女の猛攻をかわしながら、ふとライルが何かに気づいて画面の中のヘルメットをかぶっている女性を見つめた瞬間だった。至近距離でケルディムの首元に槍を突き付けて、女は言った。

『殺菌して缶詰にしちゃうわよ』

「な……ッ!!!」
 楽しそうに言われて絶句する。
 なんなんだ…ッ?! この女は…ッ。
『じゃあね、元会社員さん。もう会わないことを祈ってるわ』
 気づいた時には、ロストしていた。
 心臓が、まだ自分でもわかるくらい早鐘を打つように鳴り続けていた。
 それに。ヘルメットでわかりづらかったが、あの顔は…確か…。





 さっきの戦闘で行方不明になったアレルヤを捜索している最中、バハムートで近くを飛んでいるニールに、先程の出来事を話すか迷う。
 否、そもそもトレミーの全員に話した方がいい情報だ。あのパイロットは危険すぎる。
 しかし、顔に見覚えがあったことを話せば、ニールは確実に次の出撃時に自分の目で確かめようとするだろう。
 写真で見ただけの彼女が本当に本人なのかはわからないが、もし本人ならニールと戦わせていい相手じゃないことくらいはわかる。
 それにしても…。
「殺菌して缶詰って…俺は貝かよ…」
 ハロが楽しそうに復唱した。
「カイシャイン! カイシャイン!」
「はいはい…『元』な。て…ハロッ! お前、確か機体の戦闘記録持ってるよなッ?!」
「モッテル! モッテル!」
「……………」
 これを四年前の彼女を知っているクルーの誰かに確認してもらえば…あるいは。
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