dream〜2nd season〜

□第三話-戦う理由-
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「合席させてもらっていいかしら?」
 食堂で突然声をかけられて、ソーマが絶句していると目の前の満面笑顔の女性は続けた。
「ついさっきMS隊に着任したばかりの、エルミナ・ニエット大尉よん」
 休憩中だからなのか胸元まで開けたラフな着こなしの軍服に、軽い口調の挨拶。こんな不真面目な人が…大尉…?
 しかも彼女からは何か、不思議な感じがした。
 うまく説明できない何かが…。
 それに…わずかだが脳量子波も感じる。
「失礼しました、大尉。MS隊所属、ソーマ・ピーリス中尉です」
 わざわざ席から立って敬礼したソーマに声を出して笑いながら隣に座って、エルミナは言った。
「んふふ。そんなに硬くならないで。大尉って言っても、単なるあなたのパイロット仲間だから」
 綺麗な顔で微笑んでいる相手のペースにのせられないように気を付けながら、硬い声でソーマが警戒気味に返す。
「大尉、失礼ですが…ここへ配属される以前は、どちらにおられたのですか?」
 旧人革連なら、超兵機関に生き残りがいた可能性もあったが。
「昔、ユニオンの米軍にいた関係でね。お呼びがかかったの。あなたは?」
 米軍…。
「私は…旧人革連の超兵です」
「超兵って…確か、旧人革連の特務機関の…?」
「ご存じですか?」
 真っ直ぐに見つめてくるソーマから目をそらさずに、しかし、軽い口調でエルミナは言った。
「資料で読んだだけよ。四年前に施設がテロリストに襲われて、それ以来研究が中止になったのよね?」
 まるで、他人事のような口調。…やはり、無関係なのか?
「はい。…CBにいる被験体が、ガンダムで……」
「被験体…? 超兵機関の?」
「被験体E-0057。彼は、先日襲撃を受けた収容施設に収監されていました」
 淡々と語るソーマに、少し低い声でエルミナが言った。
「怖い顔ね。まるで、仇について話してるみたいよ?」
 ぴしゃりとソーマは言い切った。
「E-0057は同類達の仇です」
「その子も同類なのに?」
「同類なのに彼は施設にいた仲間を…ッ」
 思わず叫びそうになって、穏やかな眼でこっちを見ているエルミナに気づいてソーマは口をつぐんだ。
 一体…自分は会ったばかりの人に何を話している…?
「ね、その子の名前は?」
 静かに訊かれて、戸惑う。
「名前…?」
「名前よ。E-0057は被験体ナンバーでしょ? あなたに名前があるように、その子にも名前があるんじゃないの?」

『だったら、私が名前を付けてあげるッ!』

「名前…E-0057の…」
 なんだ…。何か…思い出せそうな…。
 ……………。
「…大丈夫?」
 声をかけられて我に返る。ソーマはきっぱりと言い切った。
「失礼しました。収容施設の資料に記載されていた氏名は、アレルヤ・ハプティズム」
 エルミナが思わず眉をしかめた。
「なんか、噛みそうな名前ね…」
「四年前の尋問で当人が名乗った名前です。先日、CBがその名前を見て彼の救出に現れたことからしても、コードネーム等である可能性はあっても、偽名である可能性は低いと思われます」
「で、その…アレルヤだっけ? あなたはその子を…」
「倒します」
 言い切ったソーマに、苦笑してエルミナは口を開いた。
「…肩に力が入り過ぎてる。そんなんじゃ、仇をとる前に肩こりで整体外科のお世話になっちゃうわよん?」
「………」
「あなたがそんなことになったら…悲しむ人がいるんじゃない?」
「………何故、そんなことを…」
「ただの勘よ。大丈夫。あなたみたいに真っ直ぐな人が、大切な人を悲しませたりするはずがないもの」
「………」
 絶句しているソーマに、空になった食器のトレーを持って立ちあがりながら、満面笑顔でエルミナは言った。
「んふふ。お姉さん、こう見えて肩を揉むの結構得意なの。気が向いたら、いつでもいらっしゃい」
 言うだけ言って去って行ってしまったエルミナを見送って、ソーマは小さく息をついた。
 ふざけているのに、憎めない人だ。
 しかし…彼女は一体…。





「どういうことだッ?!」
 バンッとカティの掌の下で机が悲鳴を上げる。銀髪をおかっぱに切りそろえた軍人が、淡々と言った。
「何事ですか? マネキン大佐」
「何故、エルミナ・ニエットが大尉待遇でアロウズのMS隊に転属されているッ?! 彼女は…」
「テロリストだったはず…ですか?」
「な…貴官はそれを知っていて…ッ」
 鼻で軽く笑って男は言った。
「彼女の実力は確かですよ。それに見合った階級を与えるのは当然でしょう? それに、そもそも彼女を軍に協力させようとしたのは…あなたではないですか? 大佐」
「…何故…それを…ッ。しかし…彼女は…」
 最後まで言わせることなく、男は断言した。
「変わったんですよ。人の心は変わりやすい」
「変わった…だと?」
「ええ。話してみればわかりますよ」
 怒りに震えているカティを挑発するように、男はいつまでも笑っていた。
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