dream〜2nd season〜
□第三話-戦う理由-
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「兄さんのようにはいかないな…」
呟いてシミュレーションを終了する。
相変わらず、ライルの訓練結果は伸び悩んでいた。
この前の実戦で少しはマシになったかとも思ったが。
「あ…」
洗面所から出てきたニールと廊下ですれ違う。なんとなく顔色から状況を察してしまって、通り越したところで思わず立ち止まった。
「兄さん」
「?」
最近、廊下ですれ違っても、食堂で偶然会っても、よそよそしく無言で離れていっていたライルに話しかけられて、少し驚く。
不思議そうに振り返って弟を見ているニールに、彼は振り向かずに背中で言った。
「…頑張れよ」
「そりゃ良かったじゃねぇか」
シヴァの部屋で、いつものように酒を呑みながら話す。
「ホントにお前じゃねぇのか?」
何度も同じことを訊くニールにシヴァが苦笑した。
「なんで俺がライルにお前のフォローしなきゃならねんだよ。他の誰かが話したか、あいつが自分で調べたんだろ」
「ライルがねぇ…」
呟きながら、酒を喉に流し込む。
シヴァが続けた。
「むしろ俺が気になってんのは、なんでこの前トレミーが奇襲された時、俺らの行き先がわかってたみたいに都合よくカタロンの連中が出てきて助太刀してきたのかってことだ。情報漏れてんじゃねぇのか?」
………鋭い。少し迷ったが、黙っていてやることにした。
「いくらなんでも偶然だろ? もしくは、マリナ姫の事がバレてたか。カタロンの中にマリナ姫の知り合いがいたって話だったぜ?」
「…何か隠してんな? お前」
流石に脳量子波を持っている男は強い。
「さて、なんのことやら」
シレッととぼけるニールを横目に酒を呑みながら、シヴァが言った。
「まぁ、いいか。明日カタロンのアジトとやらに行きゃわかるだろ」
軽い口調で笑う男に、ニールが訊いた。
「身体の方はもう大丈夫そうだな」
「ああ。…俺の方はな」
「俺の方?」
「………。なぁ、ニール。お前さ、なんでまたCBに戻ってきたんだ?」
軽く笑ってから、ニールはきっぱりと言った。
「…まだ何もしてねぇからだ。エルミナが生きてたら、きっと同じこと言うぜ。まだ何も変わっちゃいない。だから俺は今度こそこの世界を…」
シヴァが小さく言った。
「…エルの遺したガンダムでか?」
「そうだ」
「……………」
ニールが努力していることはトレミー中の全クルーが知っていた。これまでの成績を見る限り、彼が優秀であることももはや疑いようがない。しかし…。シヴァが小さく言った。
「…トランザムは使うなよ。機動が上がった分だけパイロットにかかるGも増す。お前じゃ内臓破裂すんぞ」
「ああ。おやっさんにも散々言われてるよ。……わかってる。俺じゃあいつの機体の性能を全部使い切るのは無理だってことくらい。けどな、俺にはもうあれしか残ってねぇんだよ…」
「ニール…」
何かを吹っ切るように笑ってニールは続けた。
「ブリューナクの資料も参考になるかと思って見てみたんだが、笑えるぜ? 説明書に『説明はここまでよん! あとは気合いと根性で撃ちまくれば当たる! …かもしれない』とか平気で書いてやがんの。他にも、回避モーションのタイトルが全部好きな酒の名前になってたり、ランチャーのモード変えるたびに今日の運勢がモニターにちっさく表示されたり…」
どんなに訓練が苦しくても、そこに彼女の遺した足跡を発見するたびに、元気になれた。
あの機体に乗っていると、傍で一緒に戦ってくれているみたいで。
笑っているニールに、シヴァが同じような顔で笑い返しながら言った。
「あいつらしいな」
「ああ、全くだ」
笑い合ってニールと別れた後、小さく息をつく。
あれから、何度か試してはみたが彼女の脳量子波を感じ取ることは一度もできなかった。
やはり考え過ぎなのか。
しかし、生きているならはっきり言って笑えない。あの妹が生きていて、かつ自分やニールに四年もなんの連絡も取らない理由なんて笑えないようなものしか思いつかないからだ。
その上、前回起きた干渉で感じた苦痛。
アレルヤのように監禁されている程度で済んでいればいいが…。
どちらにしても、ニールに話すには決め手に欠ける話だった。
「調べてみっか…」
呟いて、もう何度も何度も確認した四年前の戦闘記録にアクセスする。
妹が死んだときの…記録を。
「へぇ…。そんなにすごい人だったのか」
ブリッジでボトル飲料に口をつけながら休憩しているライルに、少し淋しそうに笑いながら自席に座ったままのフェルトが返す。
「でも、普段は全然すごい人って感じ、しなかったの。一緒に紅茶飲んだり、話したり…。楽しかった」
ミレイナが自席からひょっこり顔を出して楽しそうに言う。
「その人の話、聞いたことあるです! シンクレアさんの妹さんです!」
飲んでいた飲み物を危うく吹き出しかけてなんとか必死に飲み込んだ後、ライルが叫んだ。
「い、妹ぉぉッ?!」
フェルトが硬い声で言った。
「もしかして…知らなかった…?」
「聞いてねーよッ! ったく…確かに言われてみりゃ良く似てる…なんで気づかなかったんだ…?」
女性の顔が好みの顔だからそれしか意識に入らなかったのか、それとも写真でしか知らない彼女と違ってシヴァは普段から接し慣れているからそういう目で見ることができなかったからなのか。改めて言われてみればそっくりどころの話ではない。
恥ずかしさを誤魔化すようにライルは叫んだ。
「つか、聞きづらかったんだよッ。名前が出るたびにみんな通夜みたいな顔すっから…」
「…ごめん」
「ん?」
フェルトが、淡々と言った。
「みんな…悪気はないの。四年前のことを知らないライルやミレイナは何も悪くないのに、嫌な思いをさせてしまっているけど。…思い出すと、まだ辛いから」
軽く息をついて、ライルは明るい声で言った。
「それこそ誰も悪くないだろ。仲間が死んで辛いのは当たり前だ。さんきゅ、フェルト。話聞かせてくれて」
首を横に振って、フェルトは笑った。
「仲間だから…。ライルも…ミレイナも」
軽く笑って、ライルがブリッジを後にする。
ミレイナが明るい声で言った。
「ところで、シンクレアさんとは恋人同士なのですか?」
フェルトの叫び声が響いた。
「ち、違うからッ!!!!」
はた迷惑な少女がむくれた声で呟いた。
「乙女の勘が外れたです…」