dream〜2nd season〜
□第一話-誰がために鐘は鳴る-
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「よ、久しぶりだな」
笑顔と共に迎えてくれたイアンに、ニールが軽く笑う。
「おやっさんも元気そうだな」
「はっはっは。まだまだ若いもんには負けんよ。それにしても驚いたぞ。ティエリアからお前さんが生きとったと聞いた時は」
同時に、意識が戻る可能性はないらしいという報告も受けたが、信じなかった。他の仲間がいくら絶望していても、元トレミーのクルーメンバーだけはロックオン・ストラトスの復帰を信じて疑わなかったのである。
「悪いな、心配かけちまって」
「なぁに、お前さんが元気でいてくれりゃ構わんよ」
「ああ…。刹那も、ティエリアも、ミス・スメラギも…おやっさんも。無事でよかった」
病院で意識が戻った後。CBが壊滅したとニュースで知った時、一度は全員の死を本気で覚悟した。
それが、こうしてまたトレミーで再会できるとは。
「…リヒティ達のことは…」
沈んだ声で言ったイアンの言葉を遮るようにニールが無表情に返した。
「ティエリアから聞いた」
「そうか…」
加えて、アレルヤが行方不明。
結局、四人も犠牲者を出してしまった。
重い空気を打ち払うように、イアンが言った。
「とはいえ、これでお前さんの為に作っていたケルディムの最終調整がはかどるってもんよ。なんなら、今からリハビリがてらシミュレーション乗っていくか?」
「その事なんだが、おやっさん…」
トレミーに、仰天するイアンの叫び声が響いた。
「ロックオンッ!!!」
会うなり叫んで胸に飛び込んでくるフェルトを抱きしめる。
「大人っぽくなったな、フェルト」
笑いながら髪を撫でてくれるニールに、泣き顔を上げて必死に笑顔を作りながらフェルトが返した。
「おかえりなさい」
「ん…ただいま」
それは、あの頃と何一つ変わらない。
暖かい声だった。
フェルトのほかにも、ここは彼にとって懐かしい顔でいっぱいだった。ニールが顔を出すと、皆一様に、驚き、本当に嬉しそうな顔で再会を喜んでくれる。
スメラギとはここへ来る途中の船の中で話したが、かなり話し辛そうにしていた。四年前に出してしまった犠牲者の責任を感じているせいだろう。トレミーに来てからも彼女は部屋にこもって酒を呑み続けている。
一通り挨拶を済ませて、あてがわれた部屋へ行く途中、廊下で自分と同じ顔に出会った。
「もう挨拶は済んだのか?」
ニールの質問に答えたのはライルではなく、隣にいたティエリアだった。
「トレミーの案内とクルーへの顔見せは一通り済ませた」
ライルが肩をすくめる。
「どこへ行っても熱烈な歓迎だったぜ。さっすが、兄さん」
茶化すような軽い口調の皮肉に、ティエリアが眉をしかめる。慌ててニールが言った。
「ティエリア。見分けがつくように何か考えた方がいいか?」
「そう思って、制服の色を変えておいた」
「お、気が利くねぇ」
嬉しそうに言うライルを煩そうに見てから、ティエリアはニールに言った。
「ロックオン。ケルディムの話は、本当なのか?」
もう既にイアンから情報が伝わっているらしい。いつもの表情のまま、ニールはきっぱりと言い切った。
「ああ。あの機体には…デュナメスの後継機には別のマイスターを推薦する」
チラッとライルの方を見てから苦い顔でティエリアは言った。
「…ケルディムはあなたに合わせて調整されている。それでもあえて乗るというのか? あの機体に」
あの機体? と呟いたライルを完全に無視して、ニールはティエリアに言った。
「ああ…ブリューナクの後継機にな」
その機体には、ライトニングが最後に遺してくれた太陽炉が搭載されている。ティエリアとしても本来ならば、快く形見を譲ってやりたいところではあったが。
「ロックオンの気持ちはわかる。しかし無茶だ。あれは…バハムートガンダムはライト自身が乗ることを想定してライトが生前に自分で設計していた機体だ。他の人間に扱える機体じゃない」
まして、あの機体ではハロのサポートも受けられない。
ティエリアの背後から、軽い口調の男が言った。
「なぁ、さっきから俺を置いて話進めてっけどさ。それ、俺にも関係あるよな。間違いなく」
ニールとティエリアが同時に小さく息をついた。
「馬鹿か、テメェはッ?!」
叫んだのはトレミーに戻ってきたワンマンアーミーの男。コードネームというならばシヴァ・シンクレア。
ニールが楽しそうに笑って返した。
「ははは。お前も変わってねぇな。あとで部屋来るか?」
思わずつられてシヴァも楽しそうに笑う。
「お、そりゃいいな。ちょうどいい酒が手に入って…。て、んなこた後でいいんだよッ! ロックオンッ! お前、バハムートがどういう機体かわかって言ってんのかッ?!」
「おう。気遣いありがとさん。資料なら一通り目を通してあるぜ」
あの膨大な量の資料をすかさずチェックしているあたり、相変わらずこの男は抜け目がない。しかし…だ。
珍しくため息をついてシヴァが言った。
「回避特化型の高機動タイプだ。バハムートはブリューナクより更に遠距離型になってはいるが…」
「俺に向いてない機体だってことはわかってるさ。でもな、こればっかりは譲れねぇ」
その真剣な眼を一瞥してから、シヴァが普段の陽気なノリを完全にそぎ落とした沈んだ声で言った。
「ロックオン…。こんなこと言いたかねぇが、エルは普通の人間じゃねぇ」
本当に言いづらそうに、しかしはっきりと言い切った男に、ニールが思わず目を見開く。
「……お前…」
「わかってる。お前があいつを普通の人間として大事にしてくれてたことは知ってる。正直、感謝もしてる。けどな、こればっかりは普通の人間が努力してどうにかなる問題じゃねぇ」
「………」
これが、戦争でなければ頑張れと言いたくなる話ではあった。
しかし、これは戦争だ。
リスクを抱えての出撃は、そのままニールの命にかかわる。
「やめとけ。…忠告はしたぜ」
「ああ。感謝するよ。…しっかし。ホントに相変わらずだな。お前さんも」
「そっくりそのまま返すぜ。…頑固っつうか、なんっつうか…。自分が決めたら人のいう事なんざききゃしねぇ」
呆れ果てた顔で苦笑するシヴァに、ニールが好戦的な顔で笑っていた。