dream〜2nd season〜

□第一話-誰がために鐘は鳴る-
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『トレミーで待ってて。すぐに戻ってくるから』


『ああ。待ってる』



 ずっと…待ってる。


 ああ…ずっと。






 あれから、もう四年も経ったらしい。
 そのうちの三年を意識不明のままベッドの上で過ごしてしまったニールに、その実感は全くないが。
 実際、目が覚めたら三つも歳をくっていたのだからなかなかに笑えない話だ。
 自分がいつの間にか30手前とは…。時間とは残酷だ。
 そして…。
 あいつが…生きていたら28か。
 胸中呟いて、車を降りる。
 歳だけはしっかりくっていくのに、失ったものへの喪失感を時の流れが薄めてくれることは決してなかった。
 待ち合わせの場所にたたずんで、曇天の空を見上げる。
 彼女だけではない。十年以上前に失くした親も、妹も。時間が経てば傷も癒えるなんて言葉は気休めだ。
 彼の時は、四年前に止まったまま。
「ロックオン…」
 背後から懐かしい声に呼ばれて、軽い笑顔で振り返りながら男は言った。

「よぉ。答えは出たのか? 刹那」

 瞬間、鳥が灰色の空に羽ばたく。
 目を見開いて絶句したまま、何も言わない刹那に楽しそうに笑ってニールは続けた。
「すっかり男前になりやがって、このきかん坊め。もう一緒に酒も飲める歳か…。でかくなったな、刹那」
「そういうロックオンは…変わらないな。あの頃のままだ」
 やっとの思いで口を開いた刹那に、ニールは無表情に言い放った。
「そういうことだ。…結局まだ何も変わっちゃいないのさ。俺も…世界も」
「………」
「お前はどうだ? 刹那」

「俺は……………」





 刹那と一緒に車に戻って、ドアを開ける。
 瞬間広がる煙草の匂いにニールが眉をしかめた。
「お前なぁ…。吸うなら車外で吸えっていつも言ってんだろッ?!」
 ドアを開けたまま車内に怒鳴るニールに、全く同じ声が呑気な口調で返ってくる。
「兄さんが待たせるからだろ?」
「せめて窓くらい開けろ。ったく…」
 呆れ返るニールの背後からそっと車内を覗いた刹那が無表情に中にいた男を一瞥する。
 なるほど、確かによく似ている。
 ティエリアから報告は受けていたが。
 そうか。彼が…。
「ライル・ディランディ……」
 吸い終えた煙草を車内の灰皿に押し付けながら、軽い口調で男は言った。
「アンタが刹那か。ま、そういうことだから、これからよろしくな」
 何も考えていないかのようなノリでペラペラと話すライルに、刹那が無表情のまま口を開く。

 数秒後、その言葉に男の表情はガラリと変わった。






「…どうだった?」
 刹那が帰った後、短く訊いてくるニールに、さっきまで話していた通信端末を片手に握ったまま、苦い表情で俯いてライルは言った。
「まいったよ…。すげぇ被害だ。…保安局のガサ入れは本当だった」
 暗い車内でハンドルにもたれかかるように俯いているライルに、苦い声でニールが返す。
「お前、こっちに来たらカタロンはどうするつもりだ?」
 彼はしばらく黙っていたが、やがて小さな声で呟くように言った。
「…兄さんには関係ないだろ……」
 狭い車内に響く、小さな舌打ちとため息。
 どうして…こう何もかもが重苦しいのか。
 本当に自分は昔から何も変わっていない。
 唯一、変わったと思えた弟との関係でさえ、せいぜいこの程度だ。
 それでも…。

『世界と向き合って』

 ああ、わかっている。
 死んだ彼女の分まで、前に進まなきゃいけない。
 世界とも向き合わなければならない。
 たとえ彼女のいない世界でも。
 今度こそ世界を変えて、今までしてきたことへのけじめをつける。
 その為に戻るのだから。
 CB−ソレスタルビーイング−に。
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