dream

□第十話-痛む身体と心と…-
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 どうして…どうしてこの身体は勝手に動くのだろう。
 キュリオスからの攻撃を受ける瞬間、自分の背後にいる少女を…見てしまった。
「…ッ!!」
 どうして…人は人を助けてしまうのか。




「………ッ」
 少女が小さな体を起こした時、見慣れない風景が広がっていた。
「な…何…?」
 瓦礫と、煙と、炎と。そして…。
「ライトお姉ちゃん…?」
 自分を庇うように抱き締めて、ライトニングが倒れていた。
 やがて瓦礫に埋もれた彼女の身体の下から床にゆっくりと赤いものが流れていって、少女の中で何かが音を立てて崩れ落ちていく。
「ぃ…イヤ…嫌……嫌ぁああああああああッ!!」
 悲鳴で目を覚ましたライトニングが必死に体を瓦礫の下から引き抜いて起こしながら、苦しそうな声で話す。
「…わかる? これが…兵隊になるってこと。戦争をするって…こういうこと…」
「お姉ちゃんッ!! お姉ちゃんッ!! ホームが…みんなが…ッ」
「…そうだね。でも、君がさっき自分で言ってたでしょう。おっきくなったら兵隊になるって。これは…その結果」
「な…なんで……どうして? だって私たち…その為に…」
 激痛を放つ身体で適当な瓦礫にもたれかかって、必死に笑顔を作ってから、ライトニングは軽いノリで明るく言った。
「お姉さんみたいになりたい? すごく痛いわよん? 今」
 苦痛に歪んだ顔で必死に笑うライトニングに、少女は思いっきり首を横に振った。
 ライトニングが小さな声で続ける。
「いい子…ね。…よく…聞きなさい。これを…」
 万一乗ってきた小型艇で脱出できなくなった時の為に用意していた地球までの旅券と、先程まで自分が使っていた銃。
「お姉ちゃん…これは?」
「…あなたの…ホームを攻撃したのは、CB。私の…仲間よ」
「え……?」
「今、もし…あなたが殺したいほど私を憎いと思うなら…みんなの仇を討ちたいと思うなら…その銃で私を殺しなさい。そのあとすぐに、エアポートへ逃げるといいわ。その旅券があればチェックなしで地球への直行便に乗れる」
「……」
「もし…あなたが今、生きていけないほど辛いなら…これから先、一人では生きていけないと思うなら、その銃で自分の頭を撃ち抜きなさい。すぐに……お友達のところへ行けるわ…」
「……」
「でも、もしそのどちらでもないのなら。今日…目にしたものを…戦争を…恐ろしいと思えるなら…その銃を置いて、地球へ行きなさい。そして…銃を手にしなくて済む生き方を…自分で探しなさい」
「………お、お姉ちゃん…私…」
 ガタガタと震える手でライトニングから渡された銃を握っていた少女の手から、銃が落ちた。
 ガチャ…と音を立てて地面に落ちたそれを少女はしばらく怯えた眼で見ていたが、やがて、振り返らずに脱兎のごとく駆け出した。
 その姿を見送りながら、ライトニングが小さく笑う。
 我ながら…本当に何をやっているんだろうと思う。
 あの子はこれからどうなるのだろう。
 自分のように、どこかの勢力で軍人になるのだろうか?
 それとも、CBを憎み、自分やアレルヤを殺しにくるのだろうか。
 どちらにしても…。
「ごめんね…アレルヤ。せっかくあなたが…こんなに頑張ってくれたのに…」
 アレルヤに…悪いことをした。
 あとで、きちんと話さないと。





「ライトッ!!!」
 キュリオスから降りたアレルヤがヘルメットをコックピットに投げて、ライトニングの名前を絶叫しながら走ってくるのが見えた。
「アレルヤ……」
「ライト…。すみません…ッ!! すみませ…ッ、僕…僕は…ッ!!」
 血だらけのライトニングに縋り付くようにボロボロ泣きながら謝り続けるアレルヤに、ライトニングはそっと笑った。
「ごめん…なさい…アレルヤに…嫌な思い…させちゃって……。んふふ…ドジっちゃって…逃げ…遅れちゃった…」
「僕は……ッ! ………ッ!」
 慟哭と、声にならない言葉が止め処なく溢れる。
「考えた結果…なんでしょう? いいじゃない。それなら。咎は…私も一緒に背負うから」
 酷い怪我なのに…それでもアレルヤに対していつもの笑顔で笑ってくれるライトニングに、アレルヤの感情が決壊した。
「…ッ! ぅ…あ…あぁぁぁあああッ!!」
 自分にすがりついて泣き崩れるアレルヤの後頭部に、痛む腕を回して髪をなでる。
「…泣かないで。男の子でしょう?」
 彼女の身体が、耳元の声が暖かくて、余計に涙が止まらない。熱いものが、心の奥から際限なく溢れ出て、何もかも押し流していく。
 やがて、ぱたりと糸が切れるようにライトニングの腕が地に落ちた。
「ライト…? ライトッ!!!」
 意識を手放したライトニングを抱えて走る。
 最高速でキュリオスを飛ばしていると、ハレルヤが呆れたような声で呟いた。
(ったく…しぶとい女だぜ)
「ハレルヤ…」
(大丈夫だ。致命傷は負ってねぇよ)
「……そうか」
 プトレマイオスに緊急通信を入れた。
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