dream

□第三話-姉-
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 なんでこんなことになったんだろう。
 次々仲間が撃墜されていく。
 仲間の名前を絶叫する暇もなく、無数のミサイルから最高速度で懸命に回避運動を続ける。
「こちら、第三小隊ニエット少尉。本隊、応答願う」
 当然のように応答はなかった。
 最初に火の手が上がった場所を考えれば、エルミナの予想ではもうとっくに全滅しているはずだった。
 そう。事は外部からではなく内部から起きた。
 哨戒に出ていた自分と、一緒にいた仲間が戻った時には既に内部は一方的な戦闘状態に陥っていたのだ。
 混乱し、次々落とされていく仲間をしり目に、すぐにエルミナも戦闘に巻き込まれた。
 そもそも最初から違和感はあった。
 なぜ、ユニオンの制宙圏で行う演習で哨戒を出す必要があるのか。
 うかつだった。
 本体の様子がおかしいと判断した時点で、戻るべきではなかった。
 外部からの敵襲はあっても、内部からの敵襲などあり得ないと思い込んだ彼女の甘さが、仲間の命を奪った。
「く………ッ」
 ギリ…と奥歯を噛むエルミナの機体を無数の敵機が取り囲んだ。





『君の引き金の後ろは、私が守る』
 そう言った彼女に、成層圏の狙撃手は不敵に笑った。
『そいつぁ頼もしいねぇ。そいじゃ、後ろは任せたぜ』
 本気とも冗談とも取れない顔で、彼はずっと笑っていた。
「…守る。今度こそ」
 次の標的はタリビアだ。タリビアによるユニオンからの一方的な独立宣言という、アメリカとタリビアによる茶番劇。
 タリビアへの武力介入はエクシアとデュナメスとキュリオスがいれば十分だ。
 …もとい、三機も必要とは思えない。機体の数は脅しの意味も含まれている。
 問題は、米軍。
 ミッションでは米軍が来る前に撤収することになっているが…。
 彼はきっとこちらの撤収前に来るだろう。
 彼なら…。
 フッと軽く笑いがこぼれる。
 まるで、来てほしいみたいだ。
 できれば会わないに越したことはないのだけれど。
 胸中複雑な独り言を繰り返すライトニングの目に、レーダの光がうつった。
 ………きた。
 撤収中のガンダムを目指してものすごい勢いで突っ込んできたフラッグに海中から仕掛ける。
『ライトニングッ!!』
 振り返ったデュナメスから通信が飛んでくる。
「…離脱…ッして!」
 ライトニングの一撃を間一髪でかわしたフラッグの狙撃をかわしながら再び間合いをつめる。
 ブリューナクのビーム槍とフラッグの武器が交差する。
 このフラッグ…。資料にあったスペックとは比べ物にならない。この短期間でこんなものを用意してくるなんて。
 グラハムは…本気だ。
 何度も武器を交えながら逃げるタイミングを計る。
『…この太刀筋…やはり…君か』
「………ッ!?!」
 一般回線での通信だった。
 …当然、返事などできない。
『何故だッ!! なぜ君が生きていてCBに加担しているッ!? 答えろッ!!』
「………」
 何故って? そんなこと…ッ。
 通信回線を開かずにコックピット内で叫んでフルパワーで武器を振ってフラッグを振り払う。
『甘いッ!』
「…ッ!!」
 振り払った瞬間をついて再び切り込んでくるフラッグの一撃を反射神経だけで反応して受け止める。考えていたら到底間に合わない。
『それが……君の答えか………ッ』
 ………。苦しそうなグラハムの声が、妙に懐かしい。
 彼の姿を最後に見たのは、ライトニングの墓の前で泣いている姿だった。
 それを見て、彼女は自分の死を悲しんで泣いてくれる人間がいることを知り、悼んでくれる人がいることを知ったのだ。
 CBに入った頃は世界のすべてを壊してしまいたいほど世界を憎んでいたライトニングは、自分の為に泣いてくれた彼の生きる世界を、変えたいと願った。
 それが…CBに加担している理由だ。
『答えが知りたいなら…。真実を求めるなら…ッ。世界と向き合いなさい…ッ! グラハム・エーカーッ!!』
「何ッ!!?」
 突然のガンダムからの通信にほんの一瞬グラハム側に生まれた隙を、ライトニングは逃さなかった。
 全力で一撃を入れてフラッグから思いっきり離れる。
 慌てて追撃しようとしたフラッグに、背後からビーム射撃が飛んできた。
「……ッ」
 飛んできた方向を見ても相手の姿が見当たらない。どうやら視認できないほど遠くから撃ったらしい。それにしては恐ろしく狙いが正確だったが。なかなかどうして、彼女以外にもCBには腕のいいパイロットがいるようだ。
「逃げられたか…」
 仲間を逃がすために先に逃げた仲間が援護射撃をしてきたのか。
 しかし…。
 あの声はもう確実にエルミナのものだった。
「真実…。世界と向き合え…か。…一体何を伝えようとしている? 間違っているのか? 我々は…」
 その独語が誰かに届くことはなかった。




「一般回線で敵と会話…。ティエリーにバレたら射殺されちゃうね。これ…」
 胸中呟いて、ライトニングはそっとため息をついた。夕日が少し眩しい。
『ライト、無事か?』
「ああ…さっきはさんきゅ。助かったよ」
 フロントのスクリーンに、小さく通信映像が出る。
『知り合い……か?』
 ヘルメットの奥にうつるロックオンの眼は、真剣だった。
「…………軍からしてみればとんでもない裏切り者だからね、私。覚悟はしてたよ。大丈夫、戦える…」
 作り物の笑顔で軽く答えたが、相手はいつものように笑い返してはくれなかった。
『そうか…』
 険しい表情のままそれだけ言って一方的に通信を切ってしまったロックオンに対して、ほんの少し罪悪感を感じる。
 他のメンバーならともかく、もう彼に作り物の笑顔は通用しないようだ。
 きっとグラハムは…また来るだろう。
 自分たちを殺しに。
 …少し、頭が痛い。
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