dream〜2nd season〜

□第六話-過去と未来と過去と-
1ページ/3ページ



「トレミーで待ってる…か」
 まだカプセルから出てこないシヴァの様子を見ながら、ニールが静かに呟いた。
 その言葉を聞く人間は、誰もいない。
 ライルに戦闘記録を見せてもらった時、胸が詰まってしばらく言葉が出なかった。
 ぽっかりあいていた穴が、消えていく気がした。
「もう散々待ったんだ…。いいよな? エルミナ」
 待っていても戻ってこないなら、連れ戻しに行くしかない。
 ガラスに片手を当てて、中で眠っている男の顔を見る。
「お前もホント素直じゃねぇな…。知ってたんなら教えろって。なぁ?」
 笑いながら言ってやる。
 シヴァも…エルミナも…酷い表情をしていた。
 今のエルミナの状況は、目の前の男を見れば想像がつく。
「そうやって一人で全部背負いこんで、勝手に出て行って、ボロボロになって帰ってくるとこ…そっくりだぜ、お前ら」
 少しは頼れって。
 そりゃ脳量子波は使えないが。
 いらないだろ? 俺らにはそんなもん。
 胸中呟いて、その場を後にする。

 ダブルオーとセラヴィーが、ちょうど戻ってきたようだった。



 

「ロックオン、話がある」
 切り出してきたのは刹那だった。
「今度はなんだ? また誰か生き返ったか?」
 軽く笑いながら言ってやった台詞だったが、それを聞くと重い表情で刹那は黙ってしまった。
「おいおい。冗談だろ? そんなぽんぽん生き返ってくるわけ…」
 冗談半分本気半分に苦笑しているニールの言葉を遮って、刹那がハッキリと言い放った。
「ここへ戻る途中、奴と交戦した。…アリー・アル・サーシェスと」
「………ッ!!! ……な…」
 いつ、ニールに話すべきか。本当は悩んでいた。いつか話さなければならないことも。
 刹那の前で目を軽く見開いて絶句しているニールの背後から部屋に入ってきたばかりのライルが、間の抜けた声を出した。
「アリー・アル・サーシェス…? さっきのガンダムに乗ってたやつか?」
 隣にいたティエリアが少し息をついてから説明を始めた。





「なるほどねぇ。兄さんはそれであの大怪我ってわけか…」
 いつの間にか、ニールは部屋から姿を消してしまっていた。去り際、ティエリアが慌てて声をかけたが、一人にして欲しいと返されただけだった。
「聞かなかったのか? ロックオンが目覚めた後」
 刹那の問いに、ライルは静かに笑って首を横に振った。
「聞いたってどうせ何も言わないさ。…今までだってそうだったんだ。仇の事も、恋人の事も」
 淋しそうな眼で笑っている男に、刹那が言った。
「そうか…。なら、お前に話しておくことがある」
「……?」





 こいつをやらなきゃ…。
 仇をとらなきゃ、俺は前に進めねぇ。
「………ッ!!」
 力いっぱい拳で横の壁を殴る。
 鈍い音が、ニールしかいない廊下に響いた。
 今やるべきことはわかっている。
 取り戻せない過去よりも、取り戻せる過去のことを考えるべきだ。
 それでも…。あの男は…今も笑いながら人を殺している。
「………く……っそ……ッ」
 薄暗い廊下で壁に背を預け、崩れるように膝を折って天を仰ぐ。小さな声が、喉の奥から漏れた。
「エルミナ……」





 刹那の話を聞いても、ライル・ディランディは刹那に銃を向けるどころか、眉一つ動かさなかった。
「その時、お前が止めてたとしても、テロは起こってたさ。そういう流れは変えられねぇんだ」
「だが…」
「全て過ぎたことだ。昔を悔やんでも仕方ねぇ」
 自分から家族を奪った組織の人間を前に、男は真っ直ぐな瞳で語った。

「そうさ。俺たちは過去じゃなく、未来の為に戦うんだ」





「ロックオン! ヒサシブリ! ヒサシブリ!」
 ぱたぱたと音を立てながら喜んでくれるハロの頭を、四年前最後に別れたときにそうしたように、そっと撫でる。
 辛そうな顔でなんとか苦笑して、ニールは低い声で言った。
「またちょっと付き合ってもらうぜ、相棒」
「ネライウツゼ! ネライウツゼ!」
 軽く笑って、訂正してやる。
「いや、今回は撃ちに行くわけじゃない」
「???」
 不思議そうに眼をピコピコさせているハロを見つめながら、自身に言い聞かせるように呟く。
「そうさ…俺は、ここに自分を変えに戻ってきたんだ」
 過去によって変えられるものは、今の自分の気持ちだけだ。
 自分でも無理矢理なのはわかっていた。
 それでも、変わろうとしなければ何も始まらない。
 だから今はケルディムに乗る。
 仇を狙い撃つためではなく、一人で苦しんでいる彼女を…連れ戻すために。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ