dream〜2nd season〜
□第六話-過去と未来と過去と-
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「トレミーで待ってる…か」
まだカプセルから出てこないシヴァの様子を見ながら、ニールが静かに呟いた。
その言葉を聞く人間は、誰もいない。
ライルに戦闘記録を見せてもらった時、胸が詰まってしばらく言葉が出なかった。
ぽっかりあいていた穴が、消えていく気がした。
「もう散々待ったんだ…。いいよな? エルミナ」
待っていても戻ってこないなら、連れ戻しに行くしかない。
ガラスに片手を当てて、中で眠っている男の顔を見る。
「お前もホント素直じゃねぇな…。知ってたんなら教えろって。なぁ?」
笑いながら言ってやる。
シヴァも…エルミナも…酷い表情をしていた。
今のエルミナの状況は、目の前の男を見れば想像がつく。
「そうやって一人で全部背負いこんで、勝手に出て行って、ボロボロになって帰ってくるとこ…そっくりだぜ、お前ら」
少しは頼れって。
そりゃ脳量子波は使えないが。
いらないだろ? 俺らにはそんなもん。
胸中呟いて、その場を後にする。
ダブルオーとセラヴィーが、ちょうど戻ってきたようだった。
「ロックオン、話がある」
切り出してきたのは刹那だった。
「今度はなんだ? また誰か生き返ったか?」
軽く笑いながら言ってやった台詞だったが、それを聞くと重い表情で刹那は黙ってしまった。
「おいおい。冗談だろ? そんなぽんぽん生き返ってくるわけ…」
冗談半分本気半分に苦笑しているニールの言葉を遮って、刹那がハッキリと言い放った。
「ここへ戻る途中、奴と交戦した。…アリー・アル・サーシェスと」
「………ッ!!! ……な…」
いつ、ニールに話すべきか。本当は悩んでいた。いつか話さなければならないことも。
刹那の前で目を軽く見開いて絶句しているニールの背後から部屋に入ってきたばかりのライルが、間の抜けた声を出した。
「アリー・アル・サーシェス…? さっきのガンダムに乗ってたやつか?」
隣にいたティエリアが少し息をついてから説明を始めた。
「なるほどねぇ。兄さんはそれであの大怪我ってわけか…」
いつの間にか、ニールは部屋から姿を消してしまっていた。去り際、ティエリアが慌てて声をかけたが、一人にして欲しいと返されただけだった。
「聞かなかったのか? ロックオンが目覚めた後」
刹那の問いに、ライルは静かに笑って首を横に振った。
「聞いたってどうせ何も言わないさ。…今までだってそうだったんだ。仇の事も、恋人の事も」
淋しそうな眼で笑っている男に、刹那が言った。
「そうか…。なら、お前に話しておくことがある」
「……?」
こいつをやらなきゃ…。
仇をとらなきゃ、俺は前に進めねぇ。
「………ッ!!」
力いっぱい拳で横の壁を殴る。
鈍い音が、ニールしかいない廊下に響いた。
今やるべきことはわかっている。
取り戻せない過去よりも、取り戻せる過去のことを考えるべきだ。
それでも…。あの男は…今も笑いながら人を殺している。
「………く……っそ……ッ」
薄暗い廊下で壁に背を預け、崩れるように膝を折って天を仰ぐ。小さな声が、喉の奥から漏れた。
「エルミナ……」
刹那の話を聞いても、ライル・ディランディは刹那に銃を向けるどころか、眉一つ動かさなかった。
「その時、お前が止めてたとしても、テロは起こってたさ。そういう流れは変えられねぇんだ」
「だが…」
「全て過ぎたことだ。昔を悔やんでも仕方ねぇ」
自分から家族を奪った組織の人間を前に、男は真っ直ぐな瞳で語った。
「そうさ。俺たちは過去じゃなく、未来の為に戦うんだ」
「ロックオン! ヒサシブリ! ヒサシブリ!」
ぱたぱたと音を立てながら喜んでくれるハロの頭を、四年前最後に別れたときにそうしたように、そっと撫でる。
辛そうな顔でなんとか苦笑して、ニールは低い声で言った。
「またちょっと付き合ってもらうぜ、相棒」
「ネライウツゼ! ネライウツゼ!」
軽く笑って、訂正してやる。
「いや、今回は撃ちに行くわけじゃない」
「???」
不思議そうに眼をピコピコさせているハロを見つめながら、自身に言い聞かせるように呟く。
「そうさ…俺は、ここに自分を変えに戻ってきたんだ」
過去によって変えられるものは、今の自分の気持ちだけだ。
自分でも無理矢理なのはわかっていた。
それでも、変わろうとしなければ何も始まらない。
だから今はケルディムに乗る。
仇を狙い撃つためではなく、一人で苦しんでいる彼女を…連れ戻すために。