long story
□大好き“だった"彼
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つぎの日の朝は目覚めが悪かった
「またこの夢か......」
時々見る過去の悪夢
私のぬぐい去れない過去の失態
私には家族がいた。大好きだった両親と兄貴が。
子供のころ、私が寺子屋から帰ると家の中は血まみれだった。
玄関でうつ伏せになっている母
「お母さん...?」
ピクリとも動かない母を揺さぶった
「お母さん!!どうしたの!?ねぇ!」
私の服がどんどん赤黒く染まってゆく
カタンッ
リビングの方で音がした
リビングに行くとこちらに背を向けた男が一人立っていた
男の足元を見ると血だまりに沈む父と兄の姿
「お父さん!!お兄ちゃん!!」
思わず叫んだ。男が振り向く。男の手には刀が握られていた
男「おや?早かったね。」
こちらに歩み寄ってくる男。私はコイツを知っていた
「し、シゲ兄ちゃん...?何してるの?」
隣の家の息子でよく一緒に遊んでくれたお兄ちゃん。
シゲ「なにって......"仕事“だよ。」
「仕事......?」
シゲ「そう。敵を倒すお仕事。」
そう言ってシゲ兄ちゃんの刀は私の右肩を掠めた
血が流れ出る。私は声にならない叫び声を上げた
シゲ「君の家族は俺達の敵だったんだ。君が帰ってくる前にと思ったが......知られてしまったんじゃ、しょうがない......。俺達のために死んでくれ。」
シゲ兄ちゃんが私に刀を向ける
死の恐怖が目の前にあるのに私の脳内は意外にも冷静で違う事を考えていた
(そういえば......昔、お父さんが剣道を教えてくれたっけ......)
父『いいか?相手の思考の先にいくんだ。集中すると相手の次の一手がわかる』
その時の私は父の言葉の意味がよくわからなかった
でも今はわかる気がする
傍に落ちてた包丁を手に取り、フラリと立ち上がる
シゲ兄ちゃんが何か言っているようだが聞き取れない
「......シゲ兄ちゃん。好きだったのに」
一歩踏み込みシゲ兄ちゃんの懐に入り込む
シゲ兄ちゃんの刀が包丁を受け止める
刀を振り払いシゲ兄ちゃんの脇腹に突き刺す
紅い鮮血が辺りに飛び散る
そこから記憶がない
気付いたら足元にシゲ兄ちゃんが落ちていた
私はこの日、初めて人を殺した。
殺したのは初恋の人だった。
その後、松陽先生に拾われ銀達と出会い松陽先生が政府に殺され、攘夷戦争に参加した。そして双黒龍が誕生する
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「シゲ兄ちゃん、久しぶり......」
私は花をお供えし、目の前の墓石に話しかける
「シゲ兄ちゃんは......お役人だったんだね......」
今まで知らなかったけど...
シゲ兄ちゃんの家系は攘夷志士と黒い繋がりがある役人だった。
シゲ兄ちゃん達に楯突いたらしい私達一家。だからあの日、邪魔者を“消した"のだろう
「全然......知らなかった......」
私の頬を熱い雫が伝う
この涙は何を意味しているのだろうか...。次々と溢れ出てくる
「ああああああああ!!」
私の叫びは木々のざわめきの中に溶けていく
ここは誰も知らない森の中。
本当は来てはいけない場所。
だって.................................
私が殺したんだから
右肩の古傷が少し疼いた