桃頬と白い翼
□桃頬と白い翼 2
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「あと6人、提出して下さい」
水野の声は、通る。
視線を迷わせることもなく、声もはっきりしていて、何故だか耳に飛び込んでくる。
だからこそ、反感も買いやすいのかと思う。
「俺パスね!やってねーし!」
井上が手を上げてそう言うと、他のノートを出していないんだろう奴らが俺も、私もと手を上げた。
廊下にそそくさと逃げていった奴もいる。
「澤村は?」
名前を呼ばれて、はっとした。
水野を見ると、その目が真っ直ぐ俺を捉えていた。
視線を逸らして、俺もパス、と言うと水野はノートを持ち直して分かりました、と言った。
廊下に出ていったのを見届けると、井上が心底ダルそうに
「水野ってマジでめんどくせぇわ」
と吐き捨てた。
俺は曖昧に笑って、数学のノートを堪えるようにゆっくりと机の中に入れた。