桃頬と白い翼
□桃頬と白い翼 3
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家の窓からいつも見てた。
俺の部屋は二階にあって、窓の外を見ると連なった山が目に入る。
コンビニとか、スーパーとか、文房具屋とか、必要最低限の店しかないつまらないこの町を取り囲むように、その山はどこまでも続いていた。
その下をみると、一本の大きな川が横にずっと続いている。
川岸には等間隔で桜の木が埋められていて、春はびっくりするぐらいに綺麗なのだ。
その川沿いの道を、一心不乱に走る人を初めて見たのは、もうずっと前。
毎日、家に帰ってそのまま机に向かい、参考書を開いて、夜ご飯を食べて、風呂に入って、また勉強。
その繰り返しに飽き飽きしていて、ふと窓の外を見たとき、その人はいた。
野球部の練習着の上に、ランニングウェアを羽織って一心に前を向いて走るその姿に、目を奪われた。
やがて視界からいなくなって、それからしばらくすると、さっきとは逆方向からまたその野球部が走ってきた。ふいにフラフラと足を止めて、膝に手をやって肩で息をしたあと、ごろんとその場に仰向けに寝転がった。
首にかけていたタオルで額をぬぐうその顔は、遠くてはっきりとは見えないけど、すごく必死だった。
やがて、おもむろに立ち上がって、その野球部は走り去った。