桃頬と白い翼
□桃頬と白い翼 2
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だいっきらいな数学の授業がようやく終わって、俺は机に倒れこんだ。
「なぁ、今日ゆーやん家遊びにいかね?昨日の夜いつものメンバーでー、って話してたんだよね」
「ゆーや?」
「マッチョと春樹も来るってさ。」
「大和田は?」
「あいつ彼女とデートだろ」
「ふぅん」
デートじゃなかったら誘うのか、と。
俺の拒否権は、最初から無いんだもんな、と。
「ゆーやめっちゃプレステのゲーム持ってるよな」
「そーそー。金持ちっていいよなぁ」
「いーよな〜」
そんなこと、絶対口には出さない。
円滑に友達関係を続けるためには、言葉は選ばなきゃいけない。
『いい加減うぜぇよな』
ふと思い出したその言葉に、胸が嫌に軋んだ。
「数学の宿題になっていたページを開いて提出して下さい」
その声に顔を上げると、水野が教卓でノートを集めていた。
相変わらず、能面のように変わらない顔だ。
でも、前ほど怖いとは思わなくなった。
あの夜がきっかけで。
あれから1週間経った。
水野と友達になれた、と思っていたのは勘違いだったと思う程、関係は変わらなかった。
つまり、あれから一言もしゃべっていない。
水野は周りを拒絶するみたいに、窓際のあの席で座って、休み時間も参考書を開いている。
そこに話しかける勇気は無かった。
集め終わったノートの数を数えて、水野が辺りを見渡した。