桃頬と白い翼
□桃頬と白い翼 1
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あの日もこんなに寒い日だった。
冷たい風を顔に受けながら、俺は澤村の横顔を盗み見た。
今日の澤村はいつもなら考えられないくらいに静かだ。
うつむいてマフラーに顔半分埋めて、鼻も、頬も、耳朶も赤く染めている。
その目はこちらを見ていない。
「寒いね」
「あ、うん……」
「見送りなんていいって言ったのに」
「そんな訳いかねぇだろ…」
「寒がりのくせに」
澤村はやはり俯いたまま視線をうろつかせた。
何を喋ればいいのか、考えあぐねているみたいだった。
あの頃は会話なんてしなくてもしょっちゅうくっつきあっていた。
今は…………。
ふいにアナウンスがホームに響いた。
ようやくか、と周囲の人々がざわめき出す。
澤村がはっとしたように顔を上げた。