桃頬と白い翼

□プロローグ
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何も言わず、何も聞かず、
俺の顔をみた瞬間
そっと肩を抱き寄せてきた。

優しく頭を撫でる手のひらを感じて、
視界がボヤける。

その胸で、声を上げて泣いた。

ダムが決壊したみたいに、
はりつめていた細い糸が
プツンって切れたみたいに。

泣いて泣いて泣いて、少し収まってくると、またじわじわ溢れるように嗚咽が漏れ出す。

そんなことがしばらく続いた。

その間、やっぱりアイツは何も言わなかった。

何も言わずに、頭を撫で続けた。

一時間位、泣き続けてようやく収まると、今度は自分の失態に恥ずかしくて
顔が上げられなくなった。

泣き止んでから、さらに一時間位して
俺が眠ってしまったと思ったのか、
そっと顔を覗き込んできた。

流石に俺も立ったままは寝ない。

泣きはらした顔を見られたくなくて、
慌てて胸に押し付けると、
ふ、とあいつが笑ったのが分かった。


「……ごめん、水野……」

「いや、いいよ、はいティッシュ」


新品のポケットティッシュを受け取りながら、本当にこいつはいつも用意がいいなと感心した。

体を離した時、俺とあいつの間を
冷たい風が吹き抜けて行った。

泣いている間ずっと暖かかったのは、安心感があったのは、あいつの体温に包まれていたからだと気づいた。

涙を脱ぐって、勢いよく鼻をかんで、口も拭うと、なんだか吹っ切れたみたいにスッキリした。


冷たい風が火照った顔に気持ちよかった。

顔を上げると、あいつの目とばちっと重なった。

「そんなじっと見るなよ」

「不細工になってる」

「うるせぇよ、分かってるわ!」

腕で顔を隠すと、今度は声を出して笑われた。

「……あの、まあまあ、助かった…。ありがとう」

「いいよ、友達なら当たり前でしょ」

「……いい奴過ぎるだろー!何もでねぇぞ!」

勢いよく肩を叩くとあいつは不服そうに何も出ないんだ、と呟いた。

俺は友達なら当たり前なんじゃねぇのかよ、と笑いながら言った。

あの時のことを今でもよく覚えている。

潰れかかっていた俺を、あいつは最後まで支えてくれた。

どんなに心強くて、安心したか、言葉には出来ないと思う。

今、生きて、前を向いて立てるのは、あいつがいてくれたからだ。
あいつが俺に気づいてくれたからだ。

あの頃、お前のことが大好きだったよ。

世界が明日滅亡するなら、残った時間最後までお前と一緒にいたいと思うくらい。

そうじゃなくたって、きっと死ぬまでお前と笑い合えると思ってた。

お前も、そう思ってくれていたんじゃないのかな。

たとえ二人の『大好き』が、すれ違っていたとしても。

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