海の巫女
□12.出航
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「鈍ってる…何の冗談だ」
息を切らしながらローが呟く
彼にとってこれほどの剣術を持っている彼女も予想外だったが、どこが数年ぶりに刀を握る人間に見えるだろうかと思えるほど凄まじい剣戟だった
「これでも結構キツイですね…っ!!」
同じく息の荒いヴィラ
ローを軽んじていたわけではないが、能力者は能力無しという状況になれば大体、いつも能力に頼っているツケが回ってくるものだ、だが彼はそれでも彼女にとって強いと思える存在だった
(この人の能力はどんなものか知らないけれど、この上に能力が足されることを考えると身震いするわ…)
火事の現場から自分を救い出したときのことはあまり覚えていないが、きっと実の能力を使ったのだろうという予測はできた
「えっ!?」
試合中に別のことに頭を回している余裕などないことに今更気付く、だがもう遅い、普段なら何の問題もなく避ける大きな石ころに足を踏み外す
運の悪いことにそこは少し大きな段差があり、足を踏み外した直後身体は地へと落ちる……そのときほぼ無意識にローの服を掴んでしまうヴィラ
二人はそのまま倒れた
背が草むらに着くと彼女の顔横にローの剣が刺さった。ローは彼女に跨るような姿勢にいる
「負け…みたいですね」
「最後の決断とやらは出来たか?」
「はい…スッキリしました、ありがとうございました」
その返事を聞き、ローは立ち上がろうとする
ガシッ
「待って…」
突如、彼の肩を掴んだヴィラ
「勝負が終わったらしようと思ってたことがありました…」
体を起き上がらせる彼女
リップ音が鳴る
「今回の件…本当にお世話になりました。ありがとう…
そして、よろしく……‟ロー”」
頬に一瞬感じた柔らかい感触
「これこそ…何の冗談だ」
ローの頬へキスを落としたヴィラはその言葉を聞き、珍しく慌てふためく
「あっ!ごめんなさいやっぱり嫌でしたよね…本当にご………」
次の瞬間、彼の顔はお互いの鼻が付くほどの距離にあった
彼女の顎が彼の長い指にクイッと持ち上げられ、唇を覆われる
幸い口に触れるだけのキスだったが、数秒間そのまま停止するほど長いキス…。
「好きな女からの接吻を嫌う男がどこにいる」
ローはそう言い放ち、手を離した
「これくらいしねェと、割に合わねェよ」