海の巫女
□7.海の上のあなた
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数日後_
「フゥ…」
船の手摺りに手をかけ海を眺める
「やはり、そっちの方が似合うと俺は思うんだがな」
「……?」
背後から現れたのはロー
その言葉に首をかしげるヴィラ
「酒場にいるアンタも悪くねェが、海を背にした方が姿が絵になる」
あまり人を褒めない彼がここまで言うのは珍しいと思いながら、にこやかに彼女は微笑んで見せた
そして、海の上の生暖かい風と彼の言葉でいつもは違う気分が彼女は表情を変えた
「海は好き……海賊と海軍をつなぐ唯一のもの、私はこの海にいれば世界中の悪人を捕まえられると信じてた」
「………」
これもまた珍しく自分のことを自分から話し始めたヴィラ、少し目を張ったがローは黙って聞いている
「ある海賊団で育てられた私は、子供ながら戦闘技術が身につき、優しく愉快で立派な大人達に囲まれ生きてきた
だからこそ、海兵になった当初は見知らぬ人を信用できず孤立したの、正直寂しくはなかった。私には夢があったから」
そこで口を閉じたヴィラ
海賊団に育てられたというのは初耳だったロー、なぜ今己について語ったのかはわからないが彼女が話すのならその話をこのまま聞こうと思った
そのとき
「船長さんには…」
低い彼女の声がローの耳に届いた
「“殺したいほど憎い人がいますか?”」
一言、そう言い放った
やはり敵討ちか…
彼女のこれまでの雰囲気、発言からしてそれくらいは予想がついた
直感したなにか似るものを感じたのもこのためなのだろうか
ここまでローの予想通り
だが
「そして、その中に…
自分が入っていたら?」
「……!!!」
彼女の発言の続きが彼を瞠目させた
その瞬間、彼女の言葉によってローの頭に二つの人間が思い浮かんだ
一つは殺したいほど憎い影
もう一つは自分に命をくれた、雪の中、不器用に笑う笑顔の光
憎い存在を持ち、なおかつ自分が何らかでその大切な人の死にかかわっている
(こいつは…)
“まるで鏡を見せられているようだ”
「あぁ…いる
いつか殺すと決めた男がな」
ローの言葉に偽りはない
彼女自身も彼の憎しみが生み出す、殺気に息を飲んでいた