海の巫女
□4.正体の一部
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「夢だと?」
「えぇ…子供の頃から叶えたい夢があったんです」
懐かしむように、儚いようにほっそりと笑い、自分の手を見つめる彼女
「それで、その夢とやらは実現できたのか」
ローがそう聞くと彼女は静かに首を横へと振った。
「私の夢は……
もう叶わないから」
ローは何の言葉も言い返すことをしなかった、彼女がこれまでになく寂しそうな辛さそうな、今にでも泣き崩れてしまいそうな顔をしていたからだった
「というか、叶える資格がないって方が正しいですかね…」
そのあとにサラッと聞き流すかもしれないほどの声の大きさで言ったその言葉は、何を意味したのか分からなかった。
「フッ、本当のお前は笑わないらしいな」
「え?」
ローは数日の会話の中で気づいたのだ、彼女が時々見せる微笑ましいあの笑顔は
‟綺麗な過ぎると”
「店に入った時から気になってたが、お前は笑ってねェ」
「………」
「表ではそりゃ大層綺麗に笑うだろうが、内心迷ってるってところだ」
「………」
彼女は肯定するかのように、黙り込んだままだ
「オレには人の過去になんて興味はねェが、お前のその目は客を、オレを見てねェ。
はじめは当たり前だと思ったぜ、客に愛想笑いなんざ基本中の基本だからな
だが、あんたは違う」
「………!!!」
ローの人を見る目は普通ではない。
その鋭すぎる洞察力は、彼女を驚愕させた
「あの時お前は言った、客に酒や料理を出すことが一番の幸せだと…あれは嘘だ。
お前は、あの店に妙な力を使い、客たちを喜ばせ、自分が必要とされる空間を作り、無理やり自身をこの島に結び付けている」
ローは帽子のツバを上げ、目線をしっかりとヴィラと合わす。
「簡単に言えば…他にしてェことがあるってところだ」
完璧に偽り笑って見せるこの女は温かみを放ちながらも、静かなる殺気が全身から漂っているのだ。
その異様さは単なる、元海賊で元海軍だからだけだろうか?
闇を含む瞳がまるで‟鏡”を見ているようで嫌になる__