海の巫女
□4.正体の一部
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「やはりそうか」
驚く気配のない彼
驚いてくれない彼に少しは残念がるようにして目を閉じるヴィラ
「船長さんが感じた店の違和感は私のチカラによるものです」
ローが感じた違和感とは店の妙な匂い、雰囲気のことだ。単なる匂いなどではない。
人を無意識に店に引きこむほどに強い執着心を生む‟何か”
それはきっと人によってさまざまだ。ローが感じたのは懐かしさを感じさせる落ち着きのある空間と、優しく包むような包容力を作り上げる店主の口調。
‟もう二度と取り戻せない故郷と家族”を無意識に思い出させる空間があの店にはあったのだ。
おそらく居心地の良さを感じたものは違うが、望むものを見せられたという点ではほかの客も同様だろう。
【一人ひとりが望む空間をつくることができる】
それがきっと彼女のチカラの正体だ。
悪魔の実によるちからか、使われたチカラ以外の能力の有無などはローにとっては今どうでもいいことだった。ローは黙って目の前の女を直視し続けていた。
その目線の意味に気付たヴィラ、それをくみ取り口を開く。
「安心してください、見たいものを見せることができるといっても、わたしはそれを見えないので、船長さんのことは何も知り得てませんから」
「そうか…」
見たいものを見せることができるのなら、ローの過去はこの女に筒抜けだったのだろうかと思ったが、まったく問題はなかったようだ
店が取り払われた外で話すこの彼女が本来ヴィラという一人の女なのだろうかとローは考えていた。
「やっぱり、あなたのような億越えの大物になると、力の使用を隠しきれませんでしたね」
ヴィラは騙していたようで悪いと思ったのか、自身について少し話し始めた。
「私なんかの情報でお詫びになるか分かりませんけど.....まぁ、過去を言えば.....私は、5歳で海賊に入り、18歳で海軍に入り、20歳でこの島で店を開いたってことです」
「何がってことだ、説明になってねェ、話すならちゃんと話せ」
ヴィラは、あまり過去を話したがらないのか、大雑把な話し方をする。
「俺が信用できねェいう問題か」
「いやいやいや、いいえ、信用できるできないじゃなくて、最近知り合った人に自分の過去を詳細まで詳しく話せますか?普通」
「..........」
確かにローは頭はキレるが、彼女も並では無い、自分が五歳で海賊に入ったというところで、微かに彼の表情が強張ったことを見逃さなかった。
それを逆手に取り、きっと‟この人も並の人生を辿ってはいない”と、直感した彼女はその質問をそのまま突き返したのだった。
「それに、今までの酒屋の店主とは思えない行動は、元海賊と元海兵で納得がいきましたよね?」
「まぁな」
「この子供達とは.....海兵をやめて.....まぁ、荒れてる時に海賊達と喧嘩してる時や乱闘してるのを子供たちに見られて、目をキラキラさせて、『お姉さん強いね』と言ったところから始まったのですよ」
かなりの早口で説明をするヴィラ
「意味がわからねェ」
「真面目に話すと」
「最初から真面目に話せ」
過去のことを聞いた途端、早口になったり話をはぐらかしたり、様子が明らかにおかしい
それに、自身も気づいたのか、彼女は焦りを落ち着かせるために、息を深く吸い込んだ。
「ごめんなさい.....少し焦りました」
「.....まぁそんなもんだ」
「あの子達は、親を海賊に殺されたから海兵になったり強くなりたいって言って、私のところへ来たです」
「断らなかったのか、そのころのお前は…」
「.....同じだったから」
真剣な顔つきなるヴィラ
彼女の瞳が揺れ動く
「‟私の夢と”」
そう言った彼女の横顔はいつにもなく寂しそうで、凛としていて美しかった。
大きな瞳には、その前に広がる偉大な海の色を映し、何処か遠くを見据えていた
そんな彼女をただ見つめていたローは、自分の中に、何か似たものを感じ
彼女を
【綺麗】だとそう感じていた