海の巫女
□3.空間の違和感
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「ど、どういう意味ですか?」
少し戸惑った様子で聞き返すヴィラ。
「いいや、何の言葉も聞き流す、愛想のねェ女だと」
「……そう見えましたか?」
嘘だろ、というたように明らかに引きつった顔のヴィラ。微かに、汗が額に流れる。
「正しく言えば‟見えた”だ、話してみりゃ、ちゃんと笑える奴だと分かった」
それを言われ倦ねったような顔をする彼女。
「初めてお会いした時から、優しく笑いかけたはずなんですけど.....」
「それは‟客”に対してだろ?フッ.....面白ェ女だ、やっと本音を聞けたぜ」
「.....!!!」
「男に靡かない冷たげな女の店長、いかにも気に入られる設定だ。それと相手の好みに合わせた巧みな言葉遣い、無表情から笑顔へ変わる表情の変化」
ローのその言葉を聞いて、『やってしまった』と困惑するヴィラ
「一番の違和感は店の雰囲気だ。俺は始め自分の意思でこの店に入ったと思った、がそれは大きな勘違いだ。この店が放つ‟妙な匂い”に触発されただけだった」
「……っ」
ヴィラは体が小さく震え出す
「.....クッ」
様子がおかしいと思ったローはそれを不審がり、顔を見ようと覗き込んだ時。
「アハハハッ.....!!」
突然笑い出した目の前の女に、思わずローも目を見張る。
「おい…」
頭がおかしくなったのかと思っているであろうローにヴィラは片手を突き出し、大丈夫だと合図する。
次第に笑い声は小さくなる。
「はぁ、久しぶりにこんなに笑った……」
大きく笑ったためにたまった涙を振り払い
ローを真っ直ぐ見つめるヴィラ
「面白いですね、トラファルガー・ローさん」
今のヴィラの声はただ凛としている。そしていつも漂う大人びた色気や相手を落ち着かせるような包容力のある笑顔が無くなる。冷静な雰囲気、口調は変わらないものの、明らかに‟彼女は変わった”
「初めてです。この店の嘘の部分を見破ったのは」
何が嬉しいのかさっぱりわからないが、幸せそうに笑う彼女。一分前の笑顔とはまるで違うモノだ。
「もっと話したい所ですけど…今日はちょっとした予定があるんですよね」
そう言って残念そうにするヴィラ、慣れた手付きでエプロンの紐を解く。
「どうですか?船長さんもいっしょ」
そう言って、右手の親指で後ろのドアを指差す彼女。
店のもう一つの扉だった。
ローは女に導かれ、外へと出た。