海の巫女
□一章 1.同じ名の女
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数日後_
あれから、ローはあの図書館に通っているが、それらしき彼女には、全くお目にかかれない。
会えるなら、というくらいにしか考えていなかったためにそれほど落胆するわけでもない。図書館を後にし、ローは街へと歩き出す。
すると、いつもなら気づかないが大通りの隅にある小道を見つける。なぜかは分からない、その道が妙に気になりそこへ入って行く。
入った先は大通りとは変わって静かな場所であった。店はなく、とても人っ気の少ない通り道だ。
「.......」
行き止まりが差し掛かかる。だが、引き返すことなどせず目の前を見つめているロー
ひとつの店があったのだ。
《 Tavern 》
と書かれた看板
直訳すれば酒場。要するに、酒飲み場である
石と木で作られた洋風の綺麗な店。
周りは、植物が生えており、店をより美しく見せていた。だが、昼ということもあり店は見事に閉まっていた。
空いていたら入店していただろうとローは思いながら、その場を去ろうとする。
その時___
「開けましょうか?」
響く女の声。それは素直に耳に入り込んでくるような綺麗な質の声であった
ローはすぐに振り返る。
「やってんのか?」
そこには艶のある長い黒髪を結わくエプロン姿の女が一人。
様々な女を見てきたローにとっても、服の上からでも分かるスタイルといい、顔立ちといい…一際目立つ容姿を持つ、美しい女だった。女は今買い出しから帰ってきたというように、両手には荷物が持たれている。
「いいえ、特別に」
と和かに笑顔を見せる彼女
「あぁ…じゃぁ、頼む」
ドアの鍵を開け、中へ招かれる。
中へ入ると、外の同じように白と茶で統一された、清潔感のある洋風に飾られた店内であった。
カウンター席に座ると酒を出される。
「ハイどうぞ」
カランッと氷の音が二人だけの店内に異様に響く。
「ッ、うめェ....」
口に広がる麗らかな果樹の匂い
喉を通る滑らかさ
程よい苦さと口に残る仄かな甘さ
滅多に美味いなど素直に言わないローを驚かせたそれは、かなりの美味。
「フフッ、それは、良かった」
嬉しそうに笑う店主