海の巫女
□二章 1.シャボンディ諸島上陸
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『出てはいけない…君はこの島にいる時だけ生きられるんだ……』
長い長い階段
いくら走っても地上へは降り立てない
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『ごめんね…!!、こんな力……運命までもあなたに継がせてしまった……っ』
泣いていたその人は優しく私を抱きしめてくれた
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祭壇の布の上には赤と白の歪な模様が描かれた果物が一つ
それを見て少女は一粒の涙を流す
『帰ってくるって……言ったのに…っ!!1人にしないでよ!!……ーーー!セツナ!』
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ガバッ
布団を押し上げ飛び起きるヴィラ
呼吸は乱れ、服は汗で濡れている。
「何…今の………夢?」
夢のせいで気分が悪くなり起こされたことは確実なのだが、その夢はただの夢とは思えぬほど現実味を帯びていて、肌に伝う冷たさや感触も実際に感じたような感覚だった
「昔の記憶…?でもあんな景色、兄さんやシャンクスといた時になんて見たこと………」
ガチャ
記憶の整理をしていた時、ふとドアが開いた
「お前…いつになったら…………どうした」
入ってきたのはローで、彼は何やら言いかけて、彼女の乱れた服や髪を見て言葉を変えた
「ノックくらいしてください。それにロー、今日は早いのね…」
「何度もしたさ、今日はお前が遅ェんだ」
「え…?」
ノックが聞こえないほど気が動転していたのかと思うと余計に顔を歪めるヴィラ、もちろん今朝の夢に関してだ。それと時計を見れば昼を過ぎていることに驚愕する
ローは起こしに来ただけのつもりだったが、彼女の顔を見て顔色が変わる
元々これまでに『船の生活は慣れたか?』など気を使ってくれる彼に彼女は気を休められていた
「船に何か不服があるなら言え」
船に乗って二週間…疲れが出たのだと思い、大幅に遅れた起床時間をとやかく言うつもりは毛頭ない
「いえ、そんなのありませんよ、ペンギン、シャチ、ベポもみんな親切だし………ただ、ちょっと変な夢を見て」
「まぁいい、久々の乗船で疲れたか、後で薬を出してやる」
薬の処方の約束をして、具合が悪いならもう少し寝てろとローは部屋を後にしようとするが
「…………ねぇ、ロー」
彼女の声がローの耳をかすめ、動きを止めた
ヴィラもほぼ無意識のうちに言葉を放っていた
「ローは、両親の顔や故郷の風景って覚えてる?」
「…!!」
彼女はただのもちろん質問のつもり、だがローから放つオーラが明らかに一転したことに気づく
彼の脳裏には__真っ白い美しい街並み
「あぁ、覚えてる。消したくても消せないほどにな」
「…………」
ローも彼女に警戒や殺気の類は見せないが、静かに激情していた
それを気づいたヴィラは黙る。
恐怖や驚愕の念からではない、彼の触れていけない部分のことなのだと理解したからだ
「何故そんな事を聞く」
「覚えて………ないから」
「…?」
「私の一番古い記憶は兄と剣を交えている子供の頃のこと。何歳だったのかもあまり覚えてはいませんが、年の離れた兄に稽古をつけてもらっていたのを覚えている。でも…それ以上前の記憶がないの、親の顔も、故郷も知らない、それってすごく薄情じゃありません?」
「…………知らないきゃいいもんもある」
彼なりの励ましか、それとも過去の記憶を忘れた彼女への嫉妬か、それはわからない、だが、彼女の頬を摩ったローの手は優しかった
「ついてこい。見せたいもんがある」
摩った手をそのまま彼女の前に突き出す。ヴィラは素直にそれに応えた
手を引かれながらついて行った先には
「わぁっ……」
大人びた性格のヴィラが珍しく目を輝かせて歓喜する。そこには島、いや島というべきか、巨大な樹木の集合体である。
「シャボンディ諸島だ」