海の巫女
□11.昔話をしようか
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白衣姿のヴィラの前には新たに酒屋が構築され、完成間近という光景。
「うん、上出来上出来」
建築前よりも費用をかけたせいか、建築材料の質が良く見た目も壮麗だ
ヴィラは満足げな様子である。
ヴィラはその場をゆっくりと離れる。彼女が白衣を着ているのはこの町の診療所の手伝いをしているからだ。少しでもローに謝礼金を渡そうと働いたが突き返されてしまったために、そのお金を酒場再建に費やした。
彼女は最後の街並みを目に焼き付けようと、青空を見つめながら島の最南端へと向かった………
あれから___手術成功後から三ヶ月が経った
あの後リゼの恋人は無事に目を覚まし、更生施設へと送られた。リゼは彼にはついて行かず、彼が帰ってくる場所を作るためにここで仕事を探すという意思らしい
二人はローとヴィラに深々と何度も繰り返し頭を下げ、謝罪と礼の言葉を放った。
だが、ヴィラは今回のことを引き起こしたのは自分のせいだと言い、仕事を探すというリゼに自分の持っていた酒場の土地と、再建した酒場を__自分の持つものすべてを彼女に託した。
もちろんリゼが簡単に受け取るはずもなかったが、またこの街にヴィラが来るときに美味しいお酒を無償で飲ませてくれることを約束とし、話が決着した
最南端へ向かうのに今までのことを振り返るヴィラ……
♀♂
島の最南端はいわゆる崖で、草むらに一つのベンチが置いてある質素な雰囲気の場所だ。
「はぁ」
バッと草むらに寝っ転がるヴィラ、表情は晴れ晴れしい
カサッ…と草むらを踏む音が背後から聞こえる
「昔話をしようか…………」
「…!!!」
ほんの今声をかけようとしたローだが、その前に彼女は声を発した。
ローは草むらに出る前の森の中にいる。草木を踏む音も聞こえ、彼の気配もある、完全にローの気配には気がついているヴィラ
「独り言を話しはじめます。あたりに誰もいないことを願います!!」
だが、ヴィラはあたかも気がついていないような様子を演じ、独り言という体裁で話し始める。
ローは声をかけることをやめ彼女に背を向けるような形で木を背もたれとし座した。