海の巫女
□10.共同オペ
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影を落とすヴィラの睫毛がピクリと微動した。
「…っ」
「目覚めたか」
目覚めると目の前にいたのはロー、だが彼の顔は見えない、見えるのは背中だけ。
どうやら何かに目を通しているのが見えた
「船長さん……」
普通なら勢いよくおきあがり気絶した後のことを問いただすところだが、ヴィラは精神的にも肉体的にも疲弊しており、今ある環境から推測した
「セツアは去ったんですね……」
逃げたとは言えなかった、力の差は歴然で自分には勝ち目はなかったのは重々承知していたからだ。自分の寝ていた寝台は見覚えがあり、ここはローの船内であることが理解できる
「……」
彼女の言葉に無言のロー。
きっとYESという意味だろう
「リゼたちはっ!?」
ゆっくりと戻ってくる記憶の中で一番気になる人物たちのことを訪ねる
するとローは一枚の紙をパタリと音を立てて彼女が見えるように示した
紙には成人男性の体内の様子が細部に至るまで描かれている
「今はなんとか輸血で繋ぎ止めているが、オペ無しじゃ、生きられない状態だ」
「……!!!」
この絵の男性はリゼの恋人であることは即座にわかった
「船長さん……お願いです!!彼を助けてください!」
彼女はベットから降り、深くお辞儀をし願う
少しの間…
誰かのため息が一度聞こえる
もちろんこの場には一人しかいない
ローだ
彼は静かに口を開く
「…………それで、お前は俺に何をくれる」
「え………」
「俺にはこいつもこいつの女も赤の他人だ。助けたところで何の利益もねェ…
お前は俺に何をくれるんだ」
つまり、見返りがなければ人助けなどする価値はないということだ、だが、言葉とは真逆で彼の瞳には冷たげな温度は感じない
だからこそ、彼女は理解する
「あなたは………本当にずるくて優しい人…」
人は一度断ったことを自ら取り戻すことを恥じる生き物だ
このトラファルガーという男は一度断った交渉をこうして違う形でもう一度彼女に向けたのだ。
彼女の答えは………
「………彼を助けてくれたら…私__ヴィラは
‟あなたの船の船員となります”」
「……………
いいだろう、交渉成立だ」