海の巫女

□3.空間の違和感
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「あ、リリア、そちらのお客さんにこれを」


「はい、ヴィラさん」





忙しそうにするヴィラ
それを見つめながら酒を飲むローも日課となっていた

日課と言ってもあれから一週間程であるが





「この島の本は珍しいな」


「そうでしょうね、私も魅入っちゃったわ」


「確か、医学の本を読んでるだろ?」


「えぇ、でも、なんで知ってるんですか?船長さん」


「貸出履歴をな」


「あぁ、じゃ今度はこっちから質問ね、船長さんも、医学に興味が?」


「いや、俺は医者だ」


「フフッ、死の外科医っていう二つ名だからもしかしたらって思ってたんだけど…海賊の船長が医者なんて、本当に変わってるわね」






会話をするのも毎日のようになり、ローとの会話を楽しそうにするヴィラ


ローはこの二人の空間を好ましく思っていた。


だが、この一週間で気づいたこともある

‟この店の居心地の良さというものが異常なのだ”これは称賛の言葉ではない。簡単に言えば、店内の雰囲気から店主の話し方までローの好みに合い過ぎているといったところだ。客としても提供者側からしてもそれは両者納得の
素晴らしい商売なのだろうが、この店は何かが違う、何か懐かしいものを無意識のうちに見せられているいるような妙な感覚だった。









「ヴィラさんっ!...」


「どうしたの?リリア」





慌てた様子の店員が急ぎ足で外から入店してくる。





「‟ドルテ”様が」


「!…分かったわ、すぐ通して」


「はい!」




その名が出た瞬間、顔を歪ませたヴィラ






「お兄さん、すぐ終わりますから、奥で待ってもらえますか」





強制的ともいえる速さで、ローを追いやるように奥の部屋へと引き込む。




扉が空く音が聞こえる。

その瞬間、店の雰囲気はガラリと変わるのがわかる、緊張感と冷血感…






「おぉ、ヴィラ、久しぶりだなぁ」






低い声とともに現れたのは大柄の男、人相が悪く海賊かとも思えるほどの外見だ。







「金は、用意できたか?」



「できるわけないでしょ、あんな大金」






鬱陶しいように、会話するヴィラ







「……まぁ、できなきゃ、店を潰すしかねぇな」




ダンッ



その瞬間、カウンターがヴィラの手によって叩かれた。






「ふざけないで」






イラつきを隠せず睨むヴィラを、笑い飛ばすその男。すると、その男は、いやらしい笑みを浮かべ、ヴィラの体を上から下までと見回した。






「いつ見てもいい女だな…」






それを悪口とも受け取るように、ヴィラの表情は不快なものへと明らかな変化を表した。





「前にも言ったが、お前が俺の女になるんだったら、金はいらねぇぜ?」


「ハッ…誰があんたなんかの....もういいわ、金はいつか払うわ、お客様もまだいるの今日は帰って」


「....まぁいい....また来る」










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