アルスラーン戦記

□五章 再会と別れ
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谷の底に数十機のパルス兵が見える
それを高所から見下ろしている一人の男


(頭のキレる者ほど策の上でよく踊ってくれる…)



己の策が成功し自然と口角が上がる







その瞬間




シュッ




背後に他者の気配が感じられ、刃を髪の毛数本を犠牲にし避ける



空かさず、第二刀目が来るが、男は腰にさしてある剣を抜く勢いで弾く
一瞬の判断ミスが死につながるほどの切迫した瞬間だった

刀がぶつかり合い火花が散る、その光で相手の顔が微かだがうかがえる
二回目の攻撃が破られ相手は驚いた様子であった




「ルシタニア兵ではないのか?」




声からして女であると男は確信する




「何者だ」



「……………」




問うが、一向に答えは得られない





「俺はアルスラーン殿下に仕える″ナルサス″」


「……!!」




その言葉はひどく女を驚かせた
顔を覆っていた布を取り払う




「失礼した。私はファランギース、ミスラ神に仕える者、アルスラーン殿下にお力添えしたく参上した、ずっとカーラーン公の部隊をつけて参ったのじゃ」


「ほう、殿下に味方を…よしっ、早速協力してもらおう」


「…?私を疑わないのか」


「おぬしがカーラーン党派やルシタニア側なら今頃大声を上げて俺の所在を知らせるだろう?」




谷の底の数百人に並ぶ兵士を指しながら言うナルサス




「いま殿下にお仕えしているのは何人か」


「俺と俺の麗澤、それと天下無双の騎士一人……そして、おぬしらを入れて六人になった」



ナルサスは後ろの草むらに隠れていたギーヴ、ラファエラのこともこれより前から気づいていたのだ

流石だと思い、前へ出るラファエラ




「ご無沙汰しています、ナルサスさん」


「………!!…ラファエラ姫」




ナルサスはこの少女の顔立ちを見た後、少しの間をかけ、記憶にある全ての女、子どもの顔を思い出す

そして一人、いや昔にあった時の顔立ちとは少し成長した少女なのだが、その姫の名が思い浮かんだのだ




「覚えているとは思いませんでした。何しろ最後にお会いした時は、私が14歳の時でしたからね」




ナルサス卿に初めて会ったのはラファエラが12歳の時

そして、最後に会ったのはアルスラーンが宮廷入りをするほんの少し前




「姫君までここにおられるとは、このナスサスにも考えが及びませんでした」


「私も、宮廷嫌いのナルサス卿がアルスラーンに仕えてくれているなんて思っても見ませんでした。とても心強いです、我が肉親をお守りくださって感謝の極みに存じます」




ラファエラは今自分が持てる一番の振る舞いをした。
宮廷にいた頃のナルサスの賢さはよく知っているからこそ、この時初めて心から彼の生存の確信が持てた

不安から安心へ変わったのだ

もちろんこれはダリューン、ナルサスの名が二つあってこそ生まれた感情だが。




「もったいなきお言葉。″卿″とはまた一興な……昔のようにナスサスとお呼びください、ラファエラ姫」



それにしっかりと首を縦に振る彼女








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